授乳

母乳育児体験 & ヒント

007過去には人工乳の方が栄養的に優れているとされた時期もあるようですが、今日では、「アメリカ小児科医アカデミー(American Academy of Pediatrics)」を始め、世界的にも母乳をあげることが勧められています。

 

母乳には乳児の成長に必要な成分がバランスよく含まれているだけでなく、乳児を細菌やウイルスから守る抗体成分も含まれています。母乳の成分についてはまだ全て知られていませんが、研究が進むほど人口乳が母乳を複製することは、不可能だと明らかになっています。また授乳時に母親と密着することによる乳児の情緒面の発達、力強く吸う必要があるため顎の発達、乳児自身で量を調節できる、母体にとっても子宮収縮を促し産後の回復を促進する、など、栄養面以外の利点も多くあります。

 

 

私自身、絶対に母乳をあげたいと思っていました。乳児と同じ環境で暮らす母体で作られた「産地直送」新鮮な乳を飲ませることができるなんて、人工乳よりいいに決まっている!と。

 

ところが一人目が生まれ、ビュービュー噴水のように溢れ出すと頭の中で勝手に想像していた母乳がなかなか出ません。出産の痛みが癒されるのを待つこともなく、今度は、母乳ノイローゼ気味になりました。

 

「私なんてね、病院の待合室で母乳がなかなか出ない可愛そうな母親に分けてあげるほど出たのよ」

「母乳がたくさん出ているのなら赤ちゃんは泣かないものよ」

 

訪ねて来ていた姑の悪気の無い明るい言葉を身体に突き刺さしたまま、ヨレヨレとひきずっています。

 

 

 

小児科医に併設されている「授乳コンサルタント」なる方のカウンセリングを薦められ、指導どおり、とにかく飲ませました。「飲ませれば飲ませるほど出るものです」という言葉を頼りに、頭はもう母乳のことでいっぱいです。寝ても覚めても乳、乳、乳。

 

結局体重が順調に増えているので、このまま母乳だけも問題はないと小児科医に言われたのですが、それでもいつも足りない足りないと悩んでいました。長男は本当によくぐずって泣く子でした。こんなに泣くのはお腹が空いているに違いない、そう何度か人工乳を足そうとしたのですが、慣れない哺乳瓶は受け付けてくれず。

 

 

 

 

今となっては、息子がよくぐずっていたのも、私の心の状態が大きかったのだろうと分かります。笑顔でゆったりと接するというには程遠く、今日は母乳が出るだろうかと髪を振り乱し、必死の形相で赤ちゃんを抱きかかえる母親でしたから。赤ちゃんがゆったりと落ち着けるわけもありません。

母乳だろうと人工乳だろうと、一番大切なのは、母親がゆったりと満たされた気持ちで乳児に接することです。人工乳の不利点というものも、母親の笑顔や温もりでいくらだってカバーできるもの、哺乳瓶を片手にした母親にゆったりと抱きかかえられ、ニコニコと満たされた様子でスクスクと育っていく赤ちゃん達をたくさん見る内に、そう思うようになりました。

 

 

 

母乳についての研究では、生後六ヶ月の間での、胃腸系や呼吸器系の感染が防げるということが分かっていますが、長い目で見た、成長面、知性、振る舞い、などへの利点はより曖昧であることが分かっています。 (Kramer and Kakuma 2012).完全母乳とそうでない場合とでは、子供のIQなど認知面で「少し」違いが出るという研究もありますが、違いは見られないという研究も多くあります。子供の認知面の発達には、「母乳の量」が影響するわけではないというのです。(McCrory and Murray 2013)

 

母乳であろうと人工乳であろうと、まずは母親がゆったりと赤ちゃんに接することが大切です。

 

その上で、できることから取り組んでいきたいです。

 

 

私のように、溢れるほど出ている感覚はないものの、母乳を続けたいという方へのヒント:

 

 ・一回一回の授乳時にしっかりと飲ませる。

新生児は飲みながらすぐに寝てしまいます。耳の辺りをくすぐったり、服を脱がせたり、時には少し塗らしたコットンなどで頬や肩をなぜるなどして、飲むよう励まします。初めの二週間ほどは、一回の授乳に一時間近くかけることもよくありました。

 

 

・授乳間隔にこだわらない。「授乳間隔について」「頻繁型に優しい生活スタイル」参照)

一日の授乳回数にこだわらず、特に初めの三ヵ月間は、とにかく飲ませることでより出るようになります。また、間隔が空いてきたなと思うとまた頻繁に飲むようになったりと、赤ちゃんは自身の身体の成長と共に、必要な量の母乳を母体が作り出せるよう助けてくれているといいます。飲みたがる場合は、時間にこだわらず、飲ませてやります。

 

 

・夜通し寝てくれるといったことにこだわらない。

日中仮眠ができるといいですね。私の場合は、夜中を通して眠るということは、五人とも一歳を過ぎて断乳するまでほとんどありませんでした。

 

 

・身体を温める。

身体の循環をスムーズにします。母乳も元は血ですから。

 

 

・水分をたくさん取る。

どんどん吸われますから、自分が干からびていたら出るものも出ません。冷たいものよりも、身体を温めるお茶やお湯などがいいです。

 

 

・授乳ポジションを変えてみる。

違った角度から吸わせることで、あまり吸われず詰まりがちな乳腺が通ります。「フットボール・ポジション」などもよかったです。

 

 

・食事は良質の日本食中心を心がけ、乳製品や脂っこいもの避ける。

海草類、根菜類が良いようです。私の場合は、乳製品や脂っこいものを食べると、乳腺がすぐに詰まりました。余談ですが、こちら産後の病院の食事には、揚げ物、ステーキ、チョコレートケーキ、氷のたくさん入ったジュースなど、乳にあまり良くなさそうなものオンパレードです。(笑)

 

 

・ハーブ。「フェネグリーク」などのハーブ茶や、カプセルも助けになります。こちらには、スーパーなどにも「マザーズミルク」などと呼ばれる、授乳中の方向けのハーブ茶が売っていたりします。

 

 

 

 

二人目からは、よりスムーズに母乳が出るようになります。

 

「授乳というのは、生まれつき自動的にではなく、習いつつ徐々にできるようになるもの」

 

よく聞かれるこの言葉を、まさしく!と思います。

 

 

 

私のように溢れんばかりに出ているように見えなくても、体重が増えているならば、母乳だけで育児を続けていくことができます。体重が思うように増えず、小児科医などに人工乳を足すよう促された場合でも、多くの研究にあるように、「母乳の量」が長い目で子供の成長に何らかの影響を与えるわけではありません。

 

 

 

無理し過ぎることなく、母親がゆったりと笑顔で過ごすことを最優先に、腕の中の赤ちゃんの温もりを、どうぞ楽しんで下さい!

 

 

 

参考資料:

Jedrychowski W, Perera F, Jankowski J, Butscher M, Mroz E, Flak E, Kaim I, Lisowska-Miszczyk I, Skarupa A, and Sowa A.  Effect of exclusive breastfeeding on the development of children’s cognitive function in the Krakow prospective birth cohort study. 2012

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21660433

 

Kramer MS and Kakuma R. 2012. Optimal duration of exclusive breastfeeding. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15

http://summaries.cochrane.org/CD003517/optimal-duration-of-exclusive-breastfeeding

 

McCrory C and Murray A.The effect of breastfeeding on neuro-development in infancy.2013 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23135624

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