授乳

授乳の間隔について

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十五年近く前、長男への授乳指導では、授乳の間を三時間ほど開けるのを目標に調整していくように、もし泣いたとしても、あやすなど他のことでごまかし、できるだけ「間」を伸ばしていくようにね、と教えていただいたのを覚えています。

それでも今は、the World Health Organization (WHO)も、 the American Academy of Pediatrics (APP) も、三時間おきといった時間にこだわることなく、赤ちゃんの様子によって、欲しがる時に、母乳なり人工乳をあげるのがいいと勧めているそう。


この移行は、以下のような理由によるようです:

1.新生児の母親は赤ちゃんが欲しがるままに授乳すればするほど適切で安定したミルク量を供給できるようになる。

2.新生児はいつでも頻繁に、理想的には泣く前に授乳されるるのがその身体の成長に適っている

3.母乳の量や質は多様。赤ちゃんの要求に沿ったスケジュールだと、赤ちゃん自身で自然にどれほどどれくらいの間をあけて飲んだらいいか調整できる。

4.より質の良い母乳が生産され、赤ちゃんの消化器系の問題も減る。 間を空け、がちがちに膨らんだ乳房の状態での授乳より、柔らかい状態での授乳の方が、脂質が多く、質のよい母乳成分が整えられる。脂質の低すぎる母乳は、腹持ちしないだけでなく、嘔吐、下痢の原因になるとも。

5.赤ちゃんがよりストレスや痛みを感じないですむ。 授乳はお腹を満たすだけでなく、赤ちゃんの心理面での安心感、痛みの除去などをもたらす。

6.より寝る。夜の母乳には、昼の母乳には含まれない眠くなる成分(Tryptophan、circadian rhythms)が含まれているとも。将来、人工乳も朝用夜用などに分けられるだろうとも。



こうした授乳間隔についてのいくつかの研究から、面白い視点を二つ:

・哺乳類全般の研究から。

哺乳類を調べると、授乳の仕方に「二つのタイプ」あることが分かるそうです。

1.間隔型。母親が食べ物を探しに等赤ちゃんを離れ、何時間も母乳なしでも大丈夫なタイプ。

2.頻繁型。母親が常に赤ちゃんとくっついており、しょっちゅう授乳するタイプ。

1の間隔型の代表は、ウサギ。その母乳の成分を調べると、脂質18.3%、たんぱく質が13.9%含まれ、赤ちゃんの腹持ちがいいようになっている。赤ちゃんの消化器官も、長い間食物を蓄えられる仕組みに。

2は、牛や馬や。牛の母乳の脂質は3.7% 、たんぱく質は3.4%。腹持ちせず、ちょこちょこ飲む必要がある。またゴリラやチンパンジーなど、ほとんどの類人猿もこの2のタイプに当てはまる。

ヒトの母乳の成分は、脂質3.8%、たんぱく質1%ほどと薄く、赤ちゃんの身体の仕組みからみても、2の「頻繁型」が適っているそう。


・現代の狩猟採集民の研究から。

南アフリカの!Kung San族の母親は、一時間に四回、一回二分ほどの授乳ペース。南米からフィリピンまで、他の地域の狩猟採集民でも、平均で一時間に二回ほどの授乳回数という研究もある。

ヒトの歴史を振り返ると、その99パーセントの時代が、狩猟採集生活。頻繁授乳が、より人にとって自然なあり方とも言えるかもしれません。

それでも夜間の頻繁授乳は母体にとってきついもの。日中もできるだけ「赤ちゃんが寝たら寝る」といった仮眠をとるようにするのが理想。超頻繁型授乳の!Kung San族には、何と普段から決まった就寝時間というのがない! と言われます。誰も彼も眠い時にちょこちょこ細切れで眠る。こんな就寝スタイルが、頻繁授乳を可能にもしているのでしょう。

様々な研究より、「頻繁型」がヒトの赤ちゃんには合っているだろうとのことですが、それでも確かに産後数週間を経るならば、徐々に間は開いていくもの。私自身は、こうした科学的な研究に基づいてというより、とにかくまずは赤ちゃんを即効で落ち着かせないことには上の子の世話ができないといった理由から、かなりの「頻繁型」でしたが、二ヶ月もすれば、三時間はらくらく空くわよ、という知り合いも周りに何人もいました。

大切なのは、多様であるだろうヒトのニーズの中で、「三時間あけなければならない」「頻繁にあげなければならない」ということに囚われることなく、赤ちゃんの様子を感じ取りながら、自らに合った授乳スタイルを整えていくことでしょう。


一昔前は「三時間あけるのを目指して」という画一的な指標だけだったのが、昨今「赤ちゃんの要求に合わせて」という指導に移り、こういった個々の多様なニーズが受けいられるようになったのは画期的なことだな、そう思っています。



参考資料:
“The infant feeding schedule: Why–breast or bottle–babies benefit from being fed “on demand” ”by Gwen Dewar, Ph.D.
http://www.parentingscience.com/infant-feeding-schedule.html 

”Breast pumps and baby formula: Does the time of day matter?” by Gwen Dewar, Ph.D.
http://www.parentingscience.com/breast-pumps-and-baby-formula.html#sthash.iPDxnXOt.dpuf


 

写真 by Lip Kee Wikimedia Commonsより

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