チック症

040次男が三歳のとき、チックになりました。首ふりから口のゆがみ、手や肩が動くこともあり、小児科医に診察を受けたところ、三歳にしてのその動作の大きさと複雑さから、一生続く可能性のあるトゥレット症候群かもしれないという説明も受けました。

 

「何もできることはありません。普通どおりに生活し、記録を続け、麻痺や痙攣や意識障害の症状がないか注意してください」

 

それが小児科医のアドバイスでした。

 

小さな身体が動作を繰り返す度に、胸が裂かれる思いでした。上の子達と同じように育ててきたつもりなのに、この子だけどうして? 落ち込み悩みました。五人の末っ子、もうほとんど孫のような気持ちで目の中に入れてもいたくないほど愛情も注いできたつもりでした。

 

それでも、涙を流ししゃがみこんでいても、何かが改善していくわけではありません。「何もできることがない」という小児科医の言葉を思い出しながらも、次男を観察し、情報を集め、とにかくできる限りのことをしようと働きかけを始めました。そして症状は、幸い徐々に改善に向かいます。改善に向けよかったのではないかと思われる取り組みは、次のようなものでした。
 
 

プレスクールからホームスクールへ

 帰宅して大泣きした翌日に発症したことを考えると、三ヶ月程行きたくないと言いながらも通っていたプレスクールが、直接的な引き金となったといえそうです。私自身三ヶ月近くヘルパーとして入り、クラスもより合ったと思われるものに変わり、何とか慣れさせようと先生と協力し合ってきたのですが、ホームスクールをすることにしました。
 
 

親子関係の見直し

 特に二歳初めの「嫌々期」以降は、それほど手をかけさせることなく過ぎ、周りの状況を見てさっと動き、こちらが少し強く出るなら静かに従うといった、いわゆる「いい子」だった次男。プレスクールでも「全く手のかからない子」と先生方に言われていました。家事に五人の育児にと嵐のような日々に、黙って従う次男の存在がついつい視野の片隅に追いやられていたようなところがありました。その上、彼がプレスクールに行き始めたら、私自身の時間も少しずつ出てきて、よしっ将来の目標に向けて頑張るぞと意気込み。そこへ、「がつん」ときたのがこの次男のチックでした。

 

「まだ三歳の僕がいるんだよ。僕のこともう少し見てね」

 

つんつんと裾を引っ張る次男に、はっと気がつき。そうだね、そこにまだ三歳の君がいたんだね。次男の手を取り、彼の歩幅と歩速を感じながら、ゆっくりと歩いていこう、そう気持ちを入れ換えました。
 
 

兄姉に囲まれた環境の見直し

 次男が育った環境というのは、上の子達が同じ年頃だった時とは随分と違います。普段家の中で交わされる会話も、言葉の使い方も、遊びの内容も、スナックのメニューも、見るテレビも、生活のスピードも、三歳児には刺激が強すぎる場合も多くあります。

 

 次男を見ていると、症状が出るときというのは、緊張、とまどい、チャレンジ、興奮状態にある時のようでした。それは一概に「嫌だ」とストレスを感じている時だけでなく、嬉しくて興奮状態にある時などもです。まさしく小児科医が、「チックというのは緊張を緩める術なんですよ」と言った通りでした。興奮の緊張や張りを、症状によって緩めバランスを取っているのだなというのがよく分かりました。

 

そして最も症状が出るのが、上の子たちと遊んでいる時だったのです。上の子達も次男が可愛くてしょうがなく、あれやこれやと世話を焼き、次男も兄姉達が大好き。いつも四人が学校から帰ってくるのを首を長くして待ち、帰ってくればもうべったりです。それでも三歳の次男が、十三歳から六歳までの兄姉達と一緒に遊び続けるというのは、常に背伸びした興奮状態が続くということだったのかもしれません。

 

そこで、兄姉達とも話し合い、三歳児に優しい環境というものを、心に留めるようにしました。優しい言葉をかける、次男の前では少しゆったりとした遊びを心がける、テレビの内容も刺激が強いものは違う部屋でコンピューターの画面で見る、お友達や出かけ先などでもらってくるキャンディー類も目に触れさせないようにするなどです。そして上の子達が学校へ行っている間は、三歳児としてリラックスできる時を、できるだけ整えるようにしました。
 
 

次男の内面の声に耳を傾ける

「色々なことを強く感じてしまう繊細なところのある僕、ママも一日中家事や兄姉達の世話に走り回ってなかなかゆったりと相手をしてくれない、それに兄姉のいないゆっくりできる機会に、プレスクールという新しい環境で緊張続き、もうたまらない!」そんな次男の叫び声が聞こえてくるようでした。

 

細やかな次男の性質、五人の育児家事に走り回りなかなかゆっくりとできないママ、兄姉達に囲まれた生活、そういった環境と要因が絡み合い負担となっているのではないか、そう感じました。そこで、次男の生活を整えることに力を注ぎつつ、次男に対してより細やかな姿勢を向けるよう心がけていきました。
 
 

睡眠時間を十分とる

   これはかなり大きかったように感じています。上の子たちの生活ペースで動いていた次男、疲れていたんだなあとつくづく思いました。昼過ぎまで思いっきり活動し、眠くなる頃車に乗せて帰宅するなど工夫することで、一時間から二時間は毎日昼寝をするようになりました。チックはドーパミンの過剰分泌が原因という説もあり、睡眠はドーパミンを抑えます。確かに睡眠が足りなく疲れてくると、よりチックの症状が出ました。
 
 

めりはりのある規則正しいリズムで生活する

  ゆったりと落ち着ける環境を整える。「ゆったり」といっても、だらだらと過ごすのとは違い、子供はゆったりとした規則正しいリズムを日々繰り返すことで落ち着きます。
 
 

緊張や興奮をほぐすアクティビティー

 普段上の子たちに囲まれている次男の場合は、一人で遊んだり、同年代の子と遊んだり、ママとゆったり過ごしたり。思いっきり走り回ったり、身体を自由に動かすような運動は、症状を緩和させます。
 
 

自信をつける

   五人の末っ子の次男の場合、家の中では常に何もかも「一番できない」状態。三歳だから当たり前でしょうと傍目には思うのですが、本人的にはきつい面もあったようです。次男自身の「できた!」の体験を心がけることで随分変わったように思います。怖くて登れなかった遊具、ウォーターパークの水しぶきをあげる滑り台、一人でそり、それまでは「いずれ」と思っていたのですが、初めは少し手伝い徐々に離れ自分でできるようにと、一つ一つに少し多く時間をかけることで、「できた!」を増やしていく。顔つきや家族でいるときの話し方なども生き生きと活発になりました。
 
 

感情を出させる

 次男は特に物事がより分かるようになって以来(二歳の終わり頃)、わがままをいったり駄々をこねたりということがあまりなく、その場のルールや今自分がすべきことというのを敏感に感じ取り動くようなところがありました。そこで、「何がしたい?」「どうしたい?」などと次男の意向に耳を傾けるなどしつつ、わがままを言ったり泣いたり赤ちゃんのように振舞うことも自然に出させるようにしていきました。私が忙しくしていると、以前なら黙って一人で遊び始めていたのですが、感情を出させる取り組みを始めることで「それ止めて僕と遊んで!」などと言うようになってきました。それまで我慢してきたんだなあと改めて思いました。
 
 

スキンシップをたくさんとる

 親の温もりに包まれることで子供は随分緩みます。
 
 

ユーモア

 日常にユーモアを散りばめ、ケタケタクスクス本人も周りもリラックスできるように同じように敏感なところのあった長男が強くなっていったのも、このユーモアが大きかったように感じています。
 
 

愛情をその子のニーズに合った行為で表す

 チックというと、「たくさん愛してあげてください」そんなアドバイスを聞くことがあります。そして私が次男の症状と向き合うことで学んだのは、その「愛」をどうやって表すかが重要だということです。

 

五人の末っ子、私自身もうほとんど孫のような気持ちで目の中に入れてもいたくないほど「愛して」きたつもりです。溢れんばかりの愛情に「I love you」と抱きしめ、スキンシップもたくさんとり。

 

それでも、その子が必要とするニーズを感じ取り環境を整え働きかけるといった「行為」をしてきたかというと、上の子達の同じくらいの年頃に比べ、次男に対しては全く欠けていました。上の子達は、その子達中心に生活が回ってましたから。


 
 

栄養バランスのとれた食事

 栄養が偏っていると疲れやすくもあります。ドーパミンを促すカフェインやチョコや、食品添加物が良くないという説もあるようです。
 
 

脳のアレルギー?

   かなり今の医学の本流から離れますが、脳のアレルギー症状という説も。その子にとってのアレルゲンを取り除くことで重度のチックが治ったという例もあるようです。屋内のカビが少し気になっていたのですが、見える部分は除去し、カビの種類毒性度を知るためカビ研究所にサンプルを送り、寝る部屋を変えるなどしてみました。
 
 

笑顔でゆったり、それでも着実に「できる限りのことをする」

 次男の症状に向き合い、とにかく良かれと思うことを試してみようと一生懸命になっていると、ついつい眉間に皺をよせ深刻になっている自分に気がつくのですが、大らかに明るい雰囲気で心配を見せないようにすること。周りがリラックスして楽しい様子でいることで、本人も随分と緩んでいきます。

 

 

 

こうして、症状の頻度と動作の大きさは徐々に緩和していき、発症から二ヶ月ほどたった頃、消えていきました。

 

以上は、我が家のケースではこういうことが助けになったという「チック症状改善へ向けての一つの取り組み」です。症状が出て以来、「とにかく情報が欲しい」、そう切に思い、ネットで検索して見つける様々な情報に励まされたように、少しでも参考になることがあればと願っています。

 

これからも、取り組みを続けていきます。長い目でみた内面の強さを、培っていけるよう。

 

心配してくださった方々に、心よりの感謝をこめて。

 

チックに取り組む全ての方々に、エールを送りつつ。

 

 

*次男と向き合う当時の様子が、以前のブログ「靴下にはそっとオレンジを忍ばせて」に綴ってあります。以上の記事は、それらをまとめたものです。

チック症について その一

チック症について その二

チック症について、その三

チック症について、その四 治ったようです

 

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