ADHDとされる子や大人というのは、特定の化学反応を起こし易い脳の構造や性質を持っており、それには遺伝が大きく関わっていることが分かっています。
そしてこうした「ハイパーであり、衝動的で危険を顧みず大胆で、新しいことに次から次へと注意を向ける」人々というのは、いつの時代にも常に一握りは存在し、それぞれの文明を新しい方向へと切り開いていく役割を担っていたという研究もあるようです。((Williams and Taylor 2006)
今現在の教室設定などに、うまくフィットしないほど「ハイパー、衝動的大胆、注意散漫」な子供達がおり、周りも本人も違和感を抱え、苦しむことがあるということは、確かに事実としてあります。
子供達の身近な友人にも、ADHDの薬を飲んでいる子が何人かいます。何年間も身近に知っている子もおり、周りが静かであっても一人はしゃぎ続け集団として収拾がつかなくなったり、コントロールを失い机の角で頭をぶつけ怪我をしてしまったりといった本人の身の危険にも関わる場合があるのだとも知りました。
ただ、それが「病気」かというと、周りの子達を見ていても、引っ込み思案な子や、慎重な子や、社交的な子や、内向的な子など、そうした「個性の延長」として、「ハイパーで大胆で落ち着きがない子」がいるとした方がしっくりくるように思います。
今の時代のような、早くから屋内にじっと座って作業をすることに重きが置かれるような教育環境は、こうした性質を持つ子供達にとって難しく苦しいもの。そのため、薬などで「大多数に合わせる」必要も出てきてしまう。
科学者で子育てについての記事を書き続けるGwen Dewar氏は、診断を前にした場合、以下のことを念頭におくといいと言います:
・多くの子が誤って診断されているという事実があること。四百万人以上ADHDと米国で診断された子供達の中で、20パーセント近くが誤った診断だったという調査結果もあります。
・単に幼い面を持っているだけという場合もあること。じっと座ったり長い間集中したりといった面の成長が、周りと比べ少しゆっくりしているだけということもあるようです。また年長の早生まれと遅生まれの子を調査したところ、早生まれの子の方が60%多くADHDの診断がされているという結果も。また一年生の時点で、ADHDと疑われた子の50%が、四年生になると症状を見せなくなっていたという調査結果などもあります。
・子供達の今置かれた状況は、世界的に見ても特殊であるということ。世界の五十の地域での調査を見ると、幼少期から屋内にじっと座って作業をするということが求められるのは、ほんの一部であるということ。大多数の地域では、常識や理性、ルールに基づいたゲームなどを六歳以下には期待せず、七歳以上になってから社会的なルールを学ぶ努力を始めるとされている。
・ADHD以外に、同じような症状を起こす原因もあるということ。睡眠障害、ワーキングメモリーの弱さ、甲状腺疾患(Thyroid problems)、病的な不安感や落ち込み( Clinical anxiety or depression)、トラウマや急激な変化(Emotional traumas and sudden life changes) 、 銘中毒(Lead poisoning)、てんかん(Undetected seizures)など。
夫の異父弟も幼い頃からADHDを疑われ続けたようです。確かに三歳の時のビデオを見て驚いたことがあります。一時たりともじっとしていない! 現代の教育環境の中遅咲きで、十代終わり頃から勉強に本気で取り組み始め、今年三十代前半で博士課程を終え、大学での教壇に立つという一つの夢を叶えました。姑(長年教育に携わり去年六十才間近で教育学博士号修得)からのアドバイスとしては:
1・身体を動かさせること。日々コンスタントにまとまった運動の時間を取る。
2・睡眠をよくとらせること。睡眠不足だと如実に集中力が低下ハイパー度上昇。ADHDと診断された子が、睡眠を十分とるようセラピーを受けたところ、症状がなくなったという例も。
3・チャレンジさせ続けること。だらだらと同じことをさせず、めりはりよく課題を前においていく。
4・小さなことをいちいち咎め続けない。他人と自分の安全を犯さないという最低限のルールを守るなら、細かいマナー的なことなど、こまごまと口うるさく言い続けない。
ということのようです。
我が家の長男も、「これ僕のことかな」とどこかで目にしたADHDの症状リストを見て言っていたことがあります。これまで学校や何らかの集団活動で特に問題があるという指摘を受けたことはないのですが、じっと座り細かいところまで完璧に曲を弾きこなす必要のあった以前のピアノの先生には「ADHDですか?」と聞かれたこともあります。傍目からも確かに落ち着きなく、ハイパーなところがあり。「運動と睡眠」、大きい!と感じています。
マジョリティーから外れてしまう性質をもった子供達。「キャッツ」などを制作したダンサーでコレオグラファーのGillian Lynne氏も、少女時代、教室で集中してじっとすることがなかったため、医師の診断を仰いだところ、その医師は「彼女はダンサーなんですよ」とダンスを勧めたという話(何て素晴らしい医師!)もあります。
教育現場、コミュニティー、家庭で、異なる多様な個性をのびのびと生かせる働きかけが目指されていくこと、願いつつ。
参考資料:
“ADHD – A Guide for Families”
http://www.aacap.org/AACAP/Families_and_Youth/Resource_Centers/ADHD_Resource_Center/ADHD_A_Guide_for_Families/What_is_ADHD.aspx
“ADHD in children: Are millions being unnecessarily medicated?” by Gwen Dewar, Ph.D. http://www.parentingscience.com/ADHD-in-children.html
Williams J and Taylor 2006. The evolution of hyperactivity, impulsivity and cognitive diversity
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16849269
写真 by Psyc3330 w11 Wikimedia Commonsより