長男十四歳がレスキュー隊トレーニングへと旅立つ数日前、ホームをベースにした教育支援チャータースクールの「スポンサー先生」(一人一人の生徒につくカウンセラー兼先生)とカフェで話し合い。長男と夫と私と。ひとまずこれから一年間のカリキュラムを具体的に組みました。
このスポンサー先生、自らサイエンスや英語の少人数クラスを教えつつ、五人のお子さんをキンダーから高校までホームスクールされた知識も体験も盛りだくさんな方。ありがたく頼もしい存在です。様々なアドバイスをいただきました。
コア科目(英語・数学・サイエンス・社会)を、大学のクラスとオンラインコースとで、サイエンスのラボはスポンサー先生の自宅での少人数クラスで、第二外国語としての日本語は大学のテキストを用い私と、そこに航空関係NPO活動とスポーツと、ひとまずどれほどマネージできるか何ヶ月か様子を見、ロボティックスやコンピュータープログラムカリキュラムなども追々入れていく。
長男本人、かなりやる気になってます。深めていきたい分野があるようですが、夢に向かっての歩みを、サポートしていけたらと思ってます。
五人の子供達の成長を見てきてつくづく思うのは、学び方も学ぶ速度も本当にそれぞれだということ。
一つの教室内で、先生の指示に従い何十人もが同時に同じことをする、そういった学びのスタイルは、素朴に、人の成長にとってかなり不自然なことなのかもしれないなと感じています。人の性質も多様、人の脳のあり方も多様。
認知科学・教育テクノロジーの専門家スガタ・ミトラ氏は、今の教育のあり方は、三百年前の帝国主義時代の英国で確立したものだとします。「読む、手書き、計算」これらができる人物を、画一的に量産するように広まっていったと。いつでも「取換え可能」なように、ニュージーランドからオーストラリアからあらゆる植民地で、「学校」という制度を通し、人は「規格化」され続けてきた。
「学校」は今も世界中で盛んに機能しており、それでもミトラ氏は、「学校」というあり方は、帝国主義の終焉した今では、全くもって「時代遅れ」じゃないかと言います。
画一的なシステム内で秀でていく者が成功者で、埋もれ、はずれる者は失敗作と底へ追いやられていく。確かに脅威のせめぎあう帝国主義時代には、そうして一つのシステムで屈強に生き残る者を選び取っていく必要もあった。
それでもそういった教育のあり方こそが、いま大きな障害となっていると。
「なぜ子どもたちは学校に背を向けるのか。規格化された人間になんかなりたくないからです」
とミトラ氏は言います。これからは、多様さの中に、創造性を見出す方向へと、世界は進んでいく必要があると。
ミトラ氏が1999年に行った世界的に有名な「壁の中の穴(Hole in the Wall)」という実験があります。
貧富の差の激しいインド、自宅にコンピュータを持つ家庭の親が、「家の子は自分でコンピュータの使い方を覚えちゃったのよ、『ギフテッド』に違いないわ」と口々に言うのを聞き、「金持ちの家には、やけに『ギフテッド』が多いもんだな」と不思議に思い、コンピューターなど見たこともないような貧困地域の村の壁にコンピューターを設置。二ヶ月して戻ると、村の子供達がコンピューターを使いこなすようになっていたと。
そこでDNAについて複雑な情報が英語で綴られたコンピューターを様々な貧困地域の村に設置し、実験してみます。二ヵ月後に戻ると、英語など解さない子供達のDNAについてのテストスコアがゼロから三十パーセント上昇。
そして、この三十パーセントを五十パーセントに引き上げ、都市の私立の学校に追いつかせたのが、「おばあちゃん的存在」だったと。
「おばあちゃん的存在」とは、後ろから、「うわあ、すごいわねえ。どうしてこんなことができちゃうのかしら? 次はどうなるのお? 私があなた達の頃はこんなことなんてできやしなかったわよ!」そんな言葉をかける存在。
つまりこの実験は、
・良質な情報
・子供同士学び合う環境
・大きな質問(少し前の記事で取り上げた「幅の広い質問(Open-Ended Question)」など:「子供の『考える力』をはぐくむ働きかけ」参照)を投げかけ、答えに驚いてみせる存在
があれば、子供達は自ら学んでいくと示しています。
ミトラ氏は、この実験を基にSOLE (Self Organized Learning Environments:自学環境)を提唱し、英国の様々な学校で試みられ成果を挙げています。
こうした一連の試みを話し、2013年のTED大賞を受賞したミトラ氏、スピーチの最後に氏の未来の望みについてこう言います:
「私の望みは、世界中の子供達の不思議に思う気持ちや共に学習する能力を活用し、未来の学びのあり方をデザインしていくことです。『クラウドの上の学校』と呼ばれる、この学校を作るのを助けてください。この学校は、仲介者が投げかける『大きな質問』を基に、子供達が知的な冒険を続ける場です。そして私がこのことを研究できる設備を作るというやり方で成し遂げたいのです。それは人による施設ではありません。ただ一人『おばあちゃん的存在』が、健康と安全について担当します。残りはクラウドからです。クラウドによって光はつけられ消され。全てクラウドから行われるのです。
(My wish is to help design a future of learning by supporting children all over the world to tap into their wonder and their ability to work together. Help me build this school. It will be called the School in the Cloud. It will be a school where children go on these intellectual adventures driven by the big questions which their mediators put in. The way I want to do this is to build a facility where I can study this. It’s a facility which is practically unmanned. There’s only one granny who manages health and safety. The rest of it’s from the cloud. The lights are turned on and off by the cloud, etc., etc., everything’s done from the cloud.)」
そして雑誌のインタビューではこんなことも:
「これからの時代、資格試験や卒業証書などは無意味になっていくでしょう。それよりも何ができるのかが問われます。わたしの会計の問題を解決してくれるなら、あなたは会計士です。免状などいりません。その社会では、人々は一切の画一化から自由になっています。同時にみんなが共有する知識というものもなくなります。そのとき物事の価値判断はいったいどうなってしまうのでしょう。わたしの現在の興味はそこにあります。子どもの価値判断のメカニズムがどうやって形成されるかということです。それがわかれば、未来の子どもに教えるべきことは3つだけになります。読み書きする能力。必要な情報を得る能力。そして、その情報の価値を判断する能力、つまりあらゆるドクトリン(教理)から自由になるための能力です。」
2013年TEDのベストスピーチに選ばれたということも示すように、これらミトラ氏の考え「今の学校のあり方をアップデートしていく必要がある」というのは、多くの人々が、心のどこかに感じていることではないでしょうか。
何十年後かには、今の学校のあり方を振り返り、ああ、あんな不合理な時代もあったんだなあと驚く時が来る、そう感じています。
それは、三十年前には、どこにいようとインターネットで瞬時に世界中の人々と繋がれるなんて想像もできなかったように。人と人との繋がりに、電子回線を用いたテキスト交換がなくてはならないものになるなんて、想像もできなかったように。
過渡期の流れの中で、日々成長する子供達と共に、今何をしていけるのか。見つめ、考え、インスパイヤリングな「ビッグアイデア」から、日常に現実的具体的な形を築き、できる範囲での行動を起こしていきたい、そう思っています。
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参考資料:
Build a School in the Cloud by Sugata Mitra https://www.ted.com/talks/sugata_mitra_build_a_school_in_the_cloud/transcript#t-1230869
「スガタ・ミトラ:インターネットを介した「学び」は既存の教育を消滅させる」
http://wired.jp/2013/01/02/vol5-sugatamitra/