ディスレクシアというと、特に「読む」ことに困難を抱える学習障害、と一般的に捉えられがちです。それでも、様々な研究から、「読む」ことの難しさは、ディスレクシアの現れの一つに過ぎないとされています。「読む」力は平均レベル、もしくはそれ以上に見えても、ディスクレシアを抱える子供達がいるんですね。
また「学習障害」というと、学業面で明らかについていけない子供達という印象を受けますが、ディスクレシアは、成績が良かったり、IQが高かったり、「知的なギフテッド」とされるような子供達の間にも、よく見られるのだそうです。こうした子供達は、ディスクレシアの困難を、飛びぬけた記憶力や、鋭い直観力、優れた言語スキルなど全般的な能力で、補っていると言います。
補えるんだから何の問題もないじゃない、とも思えます。ところが、そうした子達は、周りからこの子はできるはずなのに何でこんなこともできないんだろう?努力が足りないに違いないと扱われたり、本人も何で自分はこんな簡単なこともできないんだろう?と、凸と凹のギャップの大きさに悩み、次第に自信を喪失したりやる気を失ってしまったりという場合も多いのだそうです。
心理学者のBrock Eide氏とFernette Eide氏は、こうした一見分かりにくいディスクレシアの問題を抱える子があまりにも多いので、「隠れディスクレシア(Stealth dyslexia)」と名づけたのでした。
隠れディスクレシアの特徴
では、隠れディスクレシアの特徴とはどんなものでしょうか?
・言葉を処理し、書いてアウトプットすることが難しい。
隠れディスクレシアが、学業面で最も苦労するのが、手で文字を書くこと(ディスグラフィア)なのだそうです。
それは以下の理由のためとされています:
a.ディスクレシアに特徴的な困難を抱えているため。
「書く」という行為は、通常、頭の中で言葉を信号に転換し、その信号が運動系に働きかけ、言葉を作る文字を形成することが可能になるもの。それでもディスクレシアであると、この言葉から信号への転換が困難だそう。それは言葉を作り上げる際に用いる、視覚のテンプレートが欠けていたり、聴覚でとらえた言葉のイメージを、運動系が文字を作るために必要な信号に転換できないためとのこと。
b.空間的・継次的処理に困難を抱えるため。
結果、個々の文字をどう形成するかを覚えていることが難しかったりすると。奇妙な文字を作ったり、反対にしたり、おかしなスペースをはさんでしまったり、また、文字の順序や、言葉の音を覚えているのが難しいなど。
c.ディスプラクシア( 運動協調障害)を抱える場合が多いため。
結果、手書きで書くことが苦手。どんな言葉を書きたいかを分かっているのに、指を正しいポジションにつけることができず、とてつもないフラストレーションを体験してしまう。
d.視覚情報の処理に困難を抱えているため。
手と目の動きをうまく合わせることができず、視覚情報を書くことに用いられない。
・スペルミスが多い。
読解力、全般的な言語能力、ワーキングメモリー、アテンションのスキルなどのレベルとはかけ離れたスペルミスが多い。それでもスペルテストなどではできたりする。記憶から言葉を書こうとすると、驚くべき間違いをしたりする。
・長文読解はできても、短文を理解するのが難しい。
一語一語読むのが難しく、語を飛ばしてしまったり、語を入れ換えてしまうということも、長文では、演繹的に推測したり、文脈から鍵を見出したりと、持ち前の優れた言語能力を用いてカバーできてしまえる。それでも短い文では、少しのミスも影響してしまう。設問や算数の文章問題なども、読み間違えたり。結果、テストなどで、かなりの得点ロスになってしまう。
・自ら楽しんで本を読むということがない。
・神経学や神経心理学的なテストで、ディスクレシアに特徴的な聴覚、視覚、言語、運動処理面の欠陥が見られる。
・家族にディスクレシアを持つ者がいる。
以下のような他の分野でも、困難を抱える場合があるとのこと:
話し言葉、算数、運動協調能力、整理整頓、順序立て、時間感覚、注意力・集中力、左右の区別、空間認知、聴覚処理、視覚処理、眼球運動の制御、記憶力
隠れディスクレシアの問題
ディスレクシアの現われとしては、3パターンあるとされています。
成績や統一テストなどのスコアが、
1.平均以下: 弱みが強みを上回る
2.平均: 強みと弱みが打ち消し合う
3.平均以上: 強みが弱みを上回る
2や3であるほど、一見しては理解されにくく、適切な対処が受けられれないままになる場合が多くなります。本人は困難を抱えているにも関わらず、周りにはその深刻さが伝わらない。そして冒頭にあげたように、一人でもんもんと悩み込んでしまうことも。
そして、こんな症状(二次障害)を起こしてしまうこともあると報告されています:
倦怠感、欲求不満、自己批判 希望喪失、持てる力を発揮できない、不安感、心配、うつ、など。
また、小学校時代は、弱みを他の優れた能力やスキルで補ったり、超人的な努力でしのいだとしても、学年が上になる程、書く量も増え、学業についていけなくなるというパターンも多いと言います。
「これらの子供達は、早くに見つけられ、適切な介入を受け、きちんと土台が築かれるならば、彼らのその強い心が、全ての知識や成功を手に入れることを可能にするでしょう」と「隠れディスクレシア」の名付け親、Brock Eide氏とFernette Eide氏は言います。
隠れディスクレシアへの対処例
では、「適切な対処」とは、どういったことでしょうか?
心理学者Dan Peters, Ph.D.氏によると:
・早くからからキーボードを使えるようにする。
・テクノロジーの活用。スペルチェック機能など。
・強みの強化。
・得意なことを持つ。
・情熱を持つことを見つける。
・興味関心のあることを追求する。
・強みを弱みを改善するために用いる。
テクノロジーに苦手部分を託しつつ、興味関心や得意分野を深めることで、困難を越えるための、やる気、パッション、勢いを培っていくということですね。この本の内容をどうしても理解したい、この分野についてどうしても知りたいという気持ちや情熱が強ければ強いほど、読み書きの困難も越えていけます。
隠れディスクレシアの強み
では強みとは?ディスクレシアに見られる「優れた視覚空間能力(構築するのが得意)」や、先の記事「ディスレクシアの強み、我が家を振り返って」で紹介した「ビックピクチャーを捉える俯瞰力」などに優れているとされています。また口頭での言語能力の高さや、批判的思考力や、全般的な知識があるため、会話相手としても楽しいとも。
また事業家とディスクレシアには、強い繋がりがあるとも言われています。139人の経営者を調べたところ、3分の1以上がディスクレシアを持っていたという研究報告も!
英国のビジネスを専門とする大学教授Julie Logan氏はこんなことを言っています。
「ディスクレシアを持ちつつ成功する人々と言うのは、弱みを補うスキルをもって、普通の人々の想像を遥かに超えるような克服を続けてきた人々です。もしあなたが知り合いや友人にビジネスを始めようと声をかければ、『それは無理だ』、『うまくいかない』、『できない』といった言葉を繰り返し聞くでしょう。ディスクレシアを持つ人々は違います。困難の中でも素晴らしく創造的にハンドルを切り、道を切り開いていくんです。またディスクレシアを持つ人々は、早い時期から、弱い部分を信頼できる人々に委任することも学んでいます。それは事業家として中心となる大切なスキルと言えるでしょう」
一人でも多くのディスクレシアの子の力が、社会に生かされていくといいですね。
我が家を振り返って
重度のディスクレシアと診断された父親を持つ我が家の子供達、診断は受けてはいませんが、これまで振り返っても、隠れディスクレシアかな?といった特徴を示す子もいます。
長男15歳の場合は、小学校2年のとき「やっとこの子の書いたものを読めるようになってきました」、4年生で「このスペルミスは家系的なものですね。スペルテストではそれなりの点を取るんですけど」と先生方に言われ。5年生では、提出物のスペルミスやピリオドやコンマが抜けている場合、ホワイトボードの隅に名前が書かれ、間違えた文字などを100回書いてくるという決まりがあったのですが、何人かと並んで前に名前が書かれる回数、断トツで多いで賞。その時のエピソードを以前のブログに書いたことがあるのですが(「長男の発明・・・」)、繰り返しピリオドを書かされることにまいった彼、「ピリオドを書いてくれるロボット」作りに勢をだしてました。
一方、読解は小さな頃から得意で、本も大好き、読むのも速いのですが、一語一語というより全体的にとらえかなり直感・感覚的に読んでるのかもしれません。文法的なことは得意でなかったのですが、中学時代の特訓で何とか理解したようです。今では大学の英語のクラスを楽しめてます。また「何でも文脈にして物語りにしてしまうと、記憶し易い」と言います。ファクト単独でそのまま覚えるより、繋がりの中に置くのがよいようです。
上の隠れディスクレシアの問題では、「学年が上になるにつれより困難を抱えることが多い」ともありましたが、学年が上になるにつれ、提出物もほとんどキーボードで書くようになったためか、そういった面では随分と楽になってきているように思います。
鍵は、上の「隠れディスクレシアへの対処」にもあったように、「強みの強化」と「弱みにどう対処していくかの自覚」というのにとても納得します。
弱みであるスペルミスやケアレスミスの見直しに、人の倍以上努力する癖をつけること。そして弱みを自覚しつつ、興味関心や情熱を持つことの中で、弱みを改善していく。例えば彼の場合は、大好きなNPO活動で責任あるポジションにつき、スタッフや関係者との頻繁なメールのやりとり、また書類作りやプリゼンテーションを通し、スペルミスなどのケアレスミスを何とかしないでいこうという姿勢を身に着けてきたようです。
長女13歳は、今のところ、それほど凸凹が目立ってません。
以前少し取り上げたことのある次女11歳ですが、10歳頃まで読解面が難しかったのも、自ら本を楽しんで読むようになって以来、今のところ、これといった問題なくきています。
三女7歳も、周りより読むのがゆっくりで、最近まで文字がひっくり返ったり音がごっちゃになるということが頻繁にありました。それでも読書が大好きという気持ちが強いようで、その気持ちを持ち続けていってくれたらなと思ってます。
次女も三女も、書くことやスペルには今のところ問題を抱えているようには見えません。
次男は、今のところは、読みも書きもスムーズ。
強みを盛り上げ、弱みを克服するやる気やパッションを培っていくこと。
弱みを自覚し、弱みへの具体的対処法を身につけさせていくこと。
心がけていきたいです!
スムーズな道ではないかもしれない。
それでもあちらこちらぶつかるその過程で、
きっとかけがえのない知恵や力を手に入れるはず、
そう信じつつ。
皆様、今日もよい日を!
参考資料:
‘Stealth dyslexia’ By Brock Eide,Fernette Eide
http://www.davidsongifted.org/db/Articles_id_10435.aspx\
‘Stealth Dyslexia: Flying Under the Radar’ by Dan Peters’by Ph.D. Summit Center
Click to access Stealth-Dyslexia-Flying-Under-the-Radar-.pdf
‘Is Your Child a Stealth Dyslexic?
These highly intelligent children often compensate so well for their dyslexia that it goes undiagnosed.’ by PAULA BOLYARD
http://pjmedia.com/lifestyle/2014/04/09/is-your-child-a-stealth-dyslexic/#ixzz3Rp6ViizC