例えば最近でも: 大人が子供を追いかけ、周りの子がきゃ~と楽しそうに走り回る中でも、部屋の隅やベッドの下に丸まって本気で恐怖におののき泣く(今まで何度か。泣いている子など誰もおらず皆楽しそう)。動物園で泳ぐアザラシを見ながら隣の小さな子がガラスをどんどんと叩くのを見て、血相を変え私にしがみついてくる(ガラスが割れて水が溢れアザラシが出てくると思ったよう)。トイレに「落ちる」のが怖くてついてきて欲しいと言う。私が隣にいても眠る際「怖い」と言うことがある。まぶしさや、風が吹き付ける感覚(周りの子達が元気に走り回っている程度でも)が苦手で、しゃがみこんだり屋内(日差しの強い日はカーテンを閉めたがる。カーペットに写る日向と日陰のシルエットを見て日が当たってるのはあそこだけよと分からせカーテンは開けたままにしておきます)や影に行きたがる。
こういった普通は通り過ぎてしまえることでも、こんな過敏に反応していたら、確かにストレスもたまり易く、チックといった症状としても出てしまうのだろうなと感じています。
「怖がり」という面では、長男の方がもっと強かったかなと思いますが、対処としては、子供の「恐怖」や「深刻さ」を助長せず、優しく明るく「たいしたことないのよ」と落ち着いている、実際にハードルを下げつつ(まぶしさや風の弱い日から徐々に強い日へと)慣らしていく、そう繰り返していくことで、長男などがそうだったように、成長と共にうまく対処していけるようになるのだろうなと思っています。
私自身ネガティブに捉えてばかりだったこういった「過敏さ」ですが、ポジティブにもなり得るとパラダイムが変わった考え方に、ポーランドの精神科医で心理学者Kazimierz Dąbrowski氏 (1902–1980)が唱える、「積極的分離(Positive Disintegration)」と「過度激動(overexcitability)」があります。こうして私自身の「認識」が変わることで、子供の行動への理解も進み、より対処もし易くなってきたかなと感じています。
Dabrowski氏は、内面的な葛藤や苦痛こそが人を成長させると考えます。内面的苦痛こそが、一般的で受身の人生から離れようと対象から主体的に分離し、物理的精神的に対象からの距離をおくことで、より広い視野や俯瞰する視点、物事に対するより深い理解、より高いレベルの認識を求め続ける『積極的分離』を促すと。そして『過度激動』という、より強い葛藤や苦痛を起こさせる激しい感情作用を持っていることは、高度な成長を可能とする「積極的分離」をより促進することにもなると。
つまり、簡単に言ってしまえば、「外からの刺激を過敏に強烈に感じてしまうことで起こる内面的な苦しみや苦痛が、その人をより高度に成長させる契機にもなり得る」ということです。
刺激に対する並ならない反応「過度激動」は以下のように分類されます(ウキペディアより):
1.精神運動性OE(overexcitability):一般的に「落ち着きがなく頭の回転が速い」印象を与えるもので、身体的多動だけでなく、話すスピードが速い、話が一気に飛躍する、頭が働いて眠れない、という精神的多動を示す。
2.知覚性OE:「神経質」という言葉で表される性質で、増長した知覚意識を持ち、まぶしい光、大きい音、匂い、触感など感覚器官に与えられた刺激に過剰に反応する。靴下の縫い目や服のラベルが気持ち悪かったり、隣室の時計の時を刻む音が気になって集中できない、などの例がある。鋭い感性は、幼少の頃から絶景に息を呑み、名曲に涙を流すといった美的感覚にも通ずる。
3.想像性OE:隠喩などの詩的表現に優れる。「注意力散漫」と見られ、「おとぎの国の住人」と揶揄されるほどの強い想像力をもつ。白昼夢を楽しみ、前夜見た夢にも過剰に反応する。いわゆる英語圏で言うところの、”think out of the box”(枠にとらわれない独創的な考え方)あるいは”think different”ができる能力として賞賛される資質である。
4.知性OE:一般に広く知られているギフテッドの特徴。知識とロジック、新しい意味を渇望し、疑問を追求し、理論的な分析や真実の探求を愛する。そのため高度な科学・ドキュメンタリー番組を好んで見たり、頭脳パズル、知覚・論理ゲームを好む。
5.感情性OE:感情の種類と幅が大きく「ドラマチック」な反応を示す。より楽しみ、より悲しみ、より腹立ち、より驚き、より恐れ、より共感する。深く感情移入し、愛着心、責任感、自省意識も非常に強い。ある程度の人生経験を持つギフテッドには、相手の気持ちを鏡のようにリアルタイムで読取り、共感する人もいる。
そして「ギフテッド」とされる人々は、「誕生時より常に外界・内界両方からの刺激を増長した精神で感じ、激しく深い幅をもって経験し、内省を繰り返していることが、彼らの著しい成長に関連している」。また「OEが強いほど毎日の生活が強烈な体験となるが、特に想像性、知性、感情性において過剰に反応する人は、他人に比べて日常生活を深遠に体験し、人生の苦楽も激しく感じる」と。
ーーーーー引用終わり
「過度激動OE」は、「ギフテッド」の特徴とも捉えられており、「ギフテッド」教育で頻繁に用いられる理論でもあります
私自身は、度合いの違いはあれど、多くの人々に何らかのこういった傾向や面があるのだと思っています。この子のここがしんどい、そう思われる方がいらしたら(全くないという親などいないかもしれませんが)、照らし合わせてみて下さい。周りの子とは違った「過敏さ」や「反応の仕方」も、何かを生み出すかもしれない「ギフト」、そう思うと少し軽くなります。こういった傾向があるからこの子やあの人は「ギフテッド」だということよりも、こうした考え方を知ることで、何でこの子は?何であの人は?と思うことでも、私がそうであったように「成長に繋がり得る過程」なのだと、もう少し大らかに見守れるようにもなるのではないでしょうか。
Dabrowski氏自身が「過度激動」は「悲劇的なギフト」とも呼ぶように、これらの性質や傾向を持つことで、確かに暮らしていくのにしんどい面や、マイナス面もたくさんあります。それら「負の面」についてはこんなようにもまとめられています(ウキペディアより):
OEが強い場合、周囲のあらゆる刺激に過剰に反応してしまい、所属する集団から浮いてしまうことがある。例えば、感情の起伏が激しいことから気分屋、知覚が鋭く些細なことで不快になってしまうことから神経質、といったレッテルを貼られる(ラベリング)。また反応が表面化しない場合でも、普通であるべき行為が心から自然にできない、相手の感情・欲求・反応などを考えすぎるあまり行動に一貫性がなくなる、などの対人距離、反社会的反省に常に駆られ、状況を満足に楽しめないケースも多い。逆に、感情や五感への刺激を避けるために敢えて集団から離れていると、今度は人付き合いが悪いと非難される。それらの状況下で感じるあらゆる気分的うつ(慢性のうつ病とは異なる)や自己嫌悪といった否定的な感情も、OEゆえに必要以上に増幅され強く感じてしまうため、逃げ場を失う危険を内包する。
ーーーーーー引用終わり
Dabrowski氏によると「高度な成長の要」というこの「過度激動」。どう対処していったらいいかのヒントを引用しておきます。
英文のままですが:
精神運動性OE
•Allow time for physical or verbal activity, before, during, and after normal daily and school activities-these individuals love to “do” and need to “do.” Build activity and movement into their lives.
•Be sure the physical or verbal activities are acceptable and not distracting to those around them. This may take some work, but it can be a fun project and beneficial to all.
•Provide time for spontaneity and open-ended, freewheeling activities. These tend to favor the needs of a person high in Psychomotor OE.
感覚性OE
•Whenever possible, create an environment which limits offensive stimuli and provides comfort.
•Provide appropriate opportunities for being in the limelight by giving unexpected attention, or facilitating creative and dramatic productions that have an audience. These individuals literally feel the recognition that comes from being in the limelight.
•Provide time to dwell in the delight of the sensual and to create a soothing environment.
想像性OE
•Imaginational people may confuse reality and fiction because their memories and new ideas become blended in their mind. Help individuals to differentiate between their imagination and the real world by having them place a stop sign in their mental videotape, or write down or draw the factual account before they embellish it.
•Help people use their imagination to function in the real world and promote learning and productivity. For example, instead of the conventional school organized notebook, have children create their own organizational system.
知性OE
• Show how to find the answers to questions. This respects and encourages a person’s passion to analyze, synthesize, and seek understanding.
•Provide or suggest ways for those interested in moral and ethical issues to act upon their concerns-such as collecting blankets for the homeless or writing to soldiers in Kosovo. This enables them to feel that they can help, in even a small way, to solve community or worldwide problems.
•If individuals seem critical or too outspoken to others, help them to see how their intent may be perceived as cruel or disrespectful. For example saying “that is a stupid idea” may not be well received, even if the idea is truly stupid.
感情性OE
•Accept all feelings, regardless of intensity. For people who are not highly emotional, this seems particularly odd. They feel that those high in Emotional OE are just being melodramatic. But if we accept their emotional intensity and help them work through any problems that might result, we will facilitate healthy growth.
•Teach individuals to anticipate physical and emotional responses and prepare for them. Emotionally intense people often don’t know when they are becoming so overwrought that they may lose control or may have physical responses to their emotions. Help them to identify the physical warning signs of their emotional stress such as headache, sweaty palms, and stomachache. By knowing the warning signs and acting on them early, individuals will be better able to cope with emotional situations and not lose control.
ーーーーー引用終わり(http://www.sengifted.org/archives/articles/overexcitability-and-the-giftedより)
「過敏さ」や、人と違ったように感じ、周りと違ったことをしてしまったり、集団の中で浮いてしまったり、それらは高度な成長を成し遂げる「ギフト」にもなり得る。個性として、負の面を考慮しつつ、プラス面を伸ばす助けになっていけたら、そう思っています。