金持ちになり、社会的地位が上がるにつれ、人は周りへの哀れみや共感を忘れ、より個人的な利益や成功のみを追い求めるようになる、そんな実験研究結果が多くあります。
・どちらかが勝ち続けるよう仕組まれたモノポリーを用いての実験。人は勝ち続け始めると、こまをわざと大きな音を立て動かし、より威圧的なポーズをとるようになり、身近にある菓子にも敗者より手を伸ばし、敗者に対し「君、すっからかんだね」とあざ笑うなど、より傲慢で周りへの配慮に欠けた様子を見せるようになる。
単に最初の段階で偶然コインが表に出て、偶然その地位を手に入れ、偶然が重なって今のステータスがあるということを、自身の中で都合よく辻褄合わせ、まるで自分が全てしたかのように思い込み始めると。
・道を渡ろうとする歩行者に対し、高級車であるほど止まらない。安い車であるほど必ず止まる。歩行者優先という法があるにも関わらず。
・このキャンディーは子供のためのものですと断っておいても、誰も見ていないと、貧乏人より金持ちの方が手を伸ばし口に入れる。
・どのように使っても自由という設定でお金を渡し、会うことのない貧しい人への寄付の機会を与えられると、金持ちより貧乏人のほうがお金を差し出す。
・もし友人が同じ種の車を購入したのなら、消防士の場合は、君もいい車を購入して嬉しいよ!と声をかけるけれど、MBA専攻者だと「気分を害する」。
・色鉛筆を選ばせてみると、社会的地位が上になるほど、周りとは違うユニークな色を選ぼうとする。
この他にも数々の実験結果が、お金を得、社会的な階段を上るうちに、周りとの調和より、個が優先され、より貪欲になっていくと示しています。上れば上るほど、自分の周りを地球が回っているといった錯覚を持ち始め、ルールなどを破ることも意に介さなくなると。
それでも、そんな金持ちで社会的地位を築いた人にも、世界中の飢えた貧しい人々や貧困についての様々な問題を扱うビデオを一時間見せることで、随分と変わるという実験結果もあります。ビデオを見て以来、チャリティーや周りの恵まれない人々へより時間やお金を割くようになったと。階段を駆け昇る中で、蓋をし見ないふりもしてきた「良心」が顔を出し始めるのです。
米国では、トップの20パーセントが全体の90パーセントの富を占めていると言われます。残り80パーセントで10パーセントの富を分かち合っているのです。
それでもトップに属する人々の間で昨今、新しいムーブメントが起き始めていると社会心理学者のピフ氏は言います。「私達は1パーセント」と名づけられた団体では、財産の半分を寄付に回すということがされ始めていると。
親は自らの価値観を子供達に伝えます。階段を上り続けてきた人々はその価値観を子供達に伝えるのです。そして同じような人々は多くの場合同じような人々と結ばれ、群れ、同じような学校へ行き、近所に住みと、価値観が守られ伝えられ続けられていきます。
そして労働者クラスでは、「自分のために強く立ち上がる必要があると同時に、社会的なルールや基準に則って、他者のニーズにも敏感になるように」と教える一方、より上の収入層になると、「ここはあなたの世界、自身の成長や自身に利益のある興味を深めていくように」と教える場合が多いと分かっています。(psychologist Hazel Markus, in 2007 in Journal of Personality and Social Psychology. )
これらの事実は、親として、子供達にこの社会をどう駆け抜けるかを教えていく上で、思い出していきたいこと、そう思っています。子供に成功して欲しいと願い、それには、時に周りを気にせず何としてでも手に入れたいものへと突き進む「ゴー・ゲッター」であることも必要だと、親として感じている自身を振り返り。
この社会の階段を上るには、確かにそんな周りへの鈍さ貪欲さといった「嫌な面」も必要な場合がある、それでも、「モノポリーの実験」のように、偶然も含み恵まれた状況の重なりが、階段を上ることを可能にしているのだと目を覚まし&覚まさせ。「良心」を思い出し&思い出させ。矛盾の中で揺れ、ぶつかりながら。
若い内は、がむしゃらに自らのために走りぬけてみなさい。でもそれは、そうは続かないものだよという、作家George Saunders氏の、Syracuse大学での2013年の卒業記念スピーチがあります。
「いい仕事、クールなステータス、ゴージャスな家、カッコいい車、そういうものを今は必死で追い求めてみなさい。それでもね、いずれ、分かり始めるから。あの時、あそこで困っていた人にちょっと立ち止まって手を貸してやればよかったなって。それができた時に、心の底から温かい満足感のようなものを感じるんだって。その心の奥底の場を信じ、大切に育て、その実りを疲れることなくシェアし続けよう」というような内容。
「良心」に訴えかけられます。
階段を上る、自己の成長、それは、より貢献するための過程でもある、そう中学生組と話し合いつつ。
参考資料:
New research suggests that more money makes people act less human. Or at least less humane.
By Lisa Miller New York News and Politics
http://nymag.com/news/features/money-brain-2012-7/
”Does money make you mean?” by Paul Piff
http://www.ted-ja.com/2014/04/paul-piff-does-money-make-you-mean.html
“George Saunders’s Advice to Graduates” By JOEL LOVELL The New York Times