長女がIQテストを受けた五歳の時のことです。テストの結果を聞き終えると、そのリタイヤ間近の心理学博士が、ご自身の息子さん夫婦とお孫さん達の写真を見せて下さいました。息子さんの奥さんは日本人なのだと嬉しそうに。
息子さんは、高校を出たものの、これといって何をしたいのか分からず、しばらく働きながら旅を続けたそうです。ホームタウンに戻ると、パートタイムの仕事を続けながらコミュニティーカレッジに何年も席を置き、そこで出会った奥さんと学生結婚。そうして二十代も終わる頃、マイノリティーの言語に興味を持ち、猛勉強を始めたそうです。その後大学院へと進み、博士号を修得し、暖かい家族に囲まれ、今はネイティブ・アメリカン居住区でのフィールドワークに大学講師にと、毎日生き生きしていると。
席を立ち、部屋を後にしようとする時、その博士は握手されながら私の目を見つめ、おっしゃいました。
「急いで焦って、芽を潰しちゃいけない。ゆっくりとね、いくんですよ」
こんなことをしていては間に合わないんじゃないか? 子ども達を前にそう思う度、あの言葉を思い出します。
そして思うのです。
一体、何に間に合わないのだろう?
でもでも現実的には・・・、そんな自身の内の声も、年とともに、大声からささやき声へ。
いつか蚊の鳴くような声になって、消えるかな。
その時その時の精一杯で進んでいこうね
その小さな積み重ねの一つ一つが
今はまだはっきりとは見えないかもしれないけれど
いつかは必ずたどり着く地へと 繋がっている
そう子ども達に声をかけつつ。