赤ちゃんでも、他人が困っていたら、手伝いたい!という気持ちを持つそうです。
人類学者のFelix Warneken とMichael Tomaselloによる実験です:
生後十四ヶ月の赤ちゃんに玩具を与え、母親は部屋の隅で黙って見守るようにします。そこへ、見知らぬ人が静かに机に向かって座ります。しばらくして、机の端からペンを落とします。そしてかがんでそのペンを拾おうとするのですが、なかなか届かない、必死でうなり声を上げながらペンを掴もうとする、といった様子を見せます。
もし、十秒して赤ちゃんが何もしなかったら、その見知らぬ人は、赤ちゃんを見つめ、またペンをとろうとし、と繰り返し、それでも何も言葉を発さないようにします。
すると、四十パーセントの場合、赤ちゃんは遊ぶのを止め、その見知らぬ人の困った様子を見、近寄ってペンを拾い、手渡したそうです。平均で七秒たたない内に、困った人が赤ちゃんと目を合わせる前に!
他のシナリオ、タオルを干す人が洗濯ばさみを落とした場合、トングでボールを拾おうとする場合なども、同じような結果だったそうです。
手荷物をたくさん抱えてドアの前に立ち扉を開けられないというような、「少し分かりにくい状況」では、手伝おうとする赤ちゃんの割合はぐっとへったものの、生後十八ヶ月にもなると、ドアを開けてあげようとするなど、そういった「分かりにくい状況」も含めて、手伝おうとする赤ちゃんがほとんどだったとのこと。
また 心理学者Lara B. Akninとその同僚による、二十二ヶ月の幼児を対象にした最近の実験では、お菓子を与えられ、そのお菓子が大好物というサルの縫いぐるみを見せられた場合、幼児はお菓子を受け取った時よりも、そのサルにお菓子を与えたときの方がハッピーだったといった結果もあります。
赤ちゃんや幼児は、しっかり話すようになる前から、手伝いたい、他人を助けてあげたいという気持ちを持っているといったことを示す実験です。
こうした手伝いたいという自然な気持ちは、「強制」されたり「報酬」を与えられることで損なわれてしまうという研究もあります。
三歳から五歳の子供七十二人を対象とした心理学者Nadia ChernyakとTamar Kushniによる実験では、シールと悲しい様子の縫いぐるみを与え、
1.シールを縫いぐるみにあげなさい
2.シールはどう使ってもいいのよ
という指示を出します。しばらくして、他の寂しそうな縫いぐるみを見せ、シールを三つ渡し、少なくとも一つのシールをあげてね、と伝えたところ、先の実験で「2のシールをどう使ってもよい自由を与えられた子」ほど、二つや三つ全部渡したといいます。
人類学者Felix WarnekenとMichael Tomaselloは「報酬」についての実験もしています。以下の三つのグループ、
1.手伝うことで物質的な報酬がもらえるようトレーニングされている
2.手伝うことで言葉で褒められるようトレーニングされている
3.手伝うことで物質的にも言葉でも何の報酬ももらえないようトレーニングされている
といったニ十ヶ月の幼児に向けてのものです。
見知らぬ大人を手伝う機会を与えられた場合、2の言葉で褒められることに慣れている、3の何の報酬も言葉も無いことに慣れている子の方が、1の報酬をもらうことになれている子より、より手伝ったとのこと。
また小学二年生から五年生に向けての心理学者Richard Fabesとその同僚による実験でも、同じような結果が出たといいます。
色紙を分けて積むよう指示し、このタスクは病院で過ごす子供達のためですと伝えます。そして何人かの子供には、手伝うことで玩具をもらえるんですよとも告げます。
タスクを終え、しばらくしてもう一度同じタスクをする機会を与えます。今度は、病院で過ごす子や玩具の報酬については何も伝えません。すると、先の実験で玩具の報酬を与えられた子は、何の報酬をもらわなかった子より、手伝うことにより少ない時間をかけ、より少ない仕事量をこなしたとのことです。
多くの実験から、一般的に「報酬」は必ずしも悪いことではなく、退屈なタスクに対してモーティベーションをあげるのに効果的、それでも、以下のような場合はモーティベーションを損なうという心理学者もいます:
1.既に取り組むタスクに対しモーティベーションを持っている場合
2.どんな質や取り組み方にも関わらず、事前に報酬を受け取る約束がされている場合
これらの実験から分かるのは?
赤ちゃんや幼児には、「困っている人を助けたい」「手伝いたい」という気持ちがある。
「強制」や「報酬」は、それら「助けたいといった気持ち」、「手伝うこと自体の喜び」を損なうことがある。
どんな時に報酬を与えるのか、その子の様子を見つつ、「手伝いたい」、「してあげること自体がハッピー」といった赤ちゃんや幼児の持つ自然な気持ちを大切にしていきたいです。
夏休み、我が家では家の中の手伝いをいかに分担するか毎年の課題です。
食べ盛りの子供達の三度の食事準備片付け、家で過ごす時間も多い分汚れ方も半端でない部屋、短い夏を謳歌する草花の手入れ、毎日のように山へ川へと出かけ天井に届くほどの洗濯の山。人数が多い分、分担しないことにはもう家の中が回っていきません。
以下は、我が家で何年もの間うまくいったりうまくいかなかったを繰り返した末、今のところベストに思える方法です:
1.一人が全て負担するならいかに大変かを話し合い、「手伝いたい」もしくは「手伝う必要がある」といった気持ちを思い出させる
2.家事分担計画表などを「子供達と共に」作る
3.計画を実行しつつ、工夫・改善・調整
4.日々の手伝いをしたか?を、週に一度のおこずかいの条件に入れる
1.「困っている人を手伝いたい」という気持ちはとても自然なもの、といった上の実験にあるように、まずは、「手伝いたい」という気持ちを思い出させること。
それには、家の中を「普通に保つ」ためには、どれほどの仕事があり、どれほどの労力と時間がかかるかと一つ一つ具体的に見ていきます。そしてもし「一人」でそれら全てをするならば、どれほど大変かを想像し話し合ってみます。
すると小さな子ほど、「私手伝ってあげるね」という気持ちを持ち、大きくなるにつれ「こりゃ手伝わないことにはどうしようもないな」とより論理的に頭を整理できるようです。
そこで、
2.毎日の家事分担リストを作るわけですが、この時重要なのが、「作る過程に子供達を関わらせる」ことだと学びました。上から強制的に「こうしてね」と差し出すよりも、共に計画することで、子供達一人一人が、より「自分のこと」という自覚を持ちます。
今年は、長女十二歳が小さな子達の意見を聞きつつ、去年からのものを作り直しました。後で日本から戻った長男に確認して。
分担表エクセルにそれぞれのタスクを打ち込む長女の周りに妹弟。
今年夏休みの計画表。五人それぞれのタスク。
3.計画したものを実行する過程で、何らかの不具合がでてきます。そこで定期的にうまくいっているかを見直し、工夫する機会を作ります。
例えば、台所のゴミ袋を外のゴミ箱まで持っていくのは、十歳児には重過ぎるから長男の階段の掃除機かけと交代しよう。屋内の観葉植物への水遣りは、七歳児には高過ぎてどうしてもこぼしてしまう。洗濯物を全部畳むのは七歳児には難しいから、一日最低五着にしよう。庭の犬の汚物取りは、七歳児一人よりも四歳児の弟が袋を持ちとペアになった方がいい。車の掃除機がけは夏の間は一週間に一度でなく二回必要なので、長女と長男の交代にしよう。などなど。
無理過ぎると、「手伝いたい」という気持ちがあっても、続きませんね。
4.果てしなく毎日続く単調な家事、週に一度おこずかいを渡すとき、「計画表の手伝いができた?」と確認することで、「手伝いたい!」という内的動機に、「報酬」という外的動機が加わり、意欲も高まります。手伝いの度報酬を与えるのではく、「あらかじめ渡すことになっているおこずかいの条件」とするぐらいが、「報酬の副作用」を思うとき、ちょうどよいバランスかなと感じています。
手伝ってあげる! そう目をきらきらさせて、一生懸命取り組む横顔。
困っている人に手をかしてあげたい、
そんな赤ちゃんや小さな子の純粋な気持ちを、
日々の生活の中に思い出し、生かしていきたいです!
*今からキャンプに出かけます。
雨がしとしと、かなり寒くサバイバルキャンプになりそうですが、山へ湖へ。
帰ってきたら報告しますね。
皆様も素晴らしい週末をお送りください!
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参考資料:
‘Helping and Cooperation at 14 Months of Age’by Felix Warneken and Michael Tomasello
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-7078.2007.tb00227.x/abstract
Raising helpful kids: The perils of rewarding good behavior by Gwen Dewar, Ph.D.
http://www.parentingscience.com/helpful-kids-and-rewards.html