マインドフルネス

「ストレス」のルーツ、脳の進化とこれから

186少し前の「子供の食べ物の好き嫌い、そのルーツと対処法」の記事にもありましたが、現代のヒトの行動や性質のルーツを説明するために、アカデミックの世界では、しばしば「人類の歴史の99パーセントの期間を占めた『狩猟採集』生活で進化させた性質が、深く組み込まれているため」といった説明がされます。
 
これは、心理学の分野で、現代のヒトが、なぜメンタルヘルスに問題を抱えるのかといった説明にも用いられることがあります。
 
 
 
マインドフルネスの専門家で、ハーバード大学医学部教授心理学者のRonald D. Siegel氏の説明を参考に、まとめてみます (‘The Science of MIndfulness: Research- Based Path to Well -Being’ by Ronald D. Siegel The Great Courseより)。
 
 

 人類が生き残るために必要だった「脳の進化」

例えば、200万年前の猿人アウストラロピテクスのアフリカ大陸での生活を想像してみます。
 
ライオンなどの猛獣や猛毒の蛇などが、そこらじゅうにうろうろしています。おっとりして見えるカバやサイなども、実はむちゃくちゃ速く走れたりして(時速60キロ!くらい)、餌と思われたり怒らせてしまったら、とてもヒトの足では太刀打ちできません。
 
野生動物に比べたら、ヒトの視覚や聴覚や嗅覚なども随分と劣っているもの。また鋭い刃や爪があるわけでもなく、毛皮や頑丈な表皮が肌を覆っているわけでもなく、ヒトが素手で立ち向かってどうにかなる動物など、そうはいません。
 
それでは、そんな危険な環境に放り込まれた赤子のような存在のヒトが、どうして生き延びることができたのか?
 
それは、ひとえに「手先の器用さ」と「脳の進化」のおかげです。
 
ヒト程、手先が器用で道具を操ることのできる生物はいません。ところが、この手先の器用さは現代でも便利なのですが、この「大昔に進化させた脳のあり方」が、現代の生活では問題の元にもなり得ると考えられています。
 
 
 

「脳の進化」はハッピーになるためではなかった?

大昔の祖先は、2つの過ち」をする可能性があったといいます。
 
1. ベージュ色の岩であるにも関わらず、ライオンが木々の間に潜んでいると思うこと。
2. ライオンが木々の間に潜んでいるにも関わらず、ベージュ色の岩だと思うこと。
 
1の過ちの結果引き起こされるのは、「不安」や「心配」です。
そして2の過ちの結果引き起こされるのは、「死」でした。
 
そこでヒトは、1の過ちを何千回と繰り返すことで、2の過ちを避けるというように、脳を発達させてきたと言います。
 
こうして人類は、厳しい環境を生き残るために、どんな小さな失敗や嫌な出来事でも覚えておき、もっと悪いことが起こるかもしれないと常に予想することに多くの時間を費やすように進化してきたのです。
 
「ヒトは、澄み切った青い海に真っ白なビーチでバケーション中でさえも、あらゆる嫌なことで頭をいっぱいにできてしまう」とSiegel氏。
 
神経科学&心理学者のRick Hansen氏曰く、「ヒトの脳は、嫌な体験にはベルクロのようにくっつき、いい体験にはテフロンのようにできている」とのこと。
 
つまり、「ヒトの脳は、ハッピーになるために進化してきたわけじゃない」んですね。
 
 
 

「負のバイアス(Negativity Bias)」

認知科学の分野では、この「嫌な出来事や体験や思いにくっつく」ヒトの脳の性質を、「負のバイアス(negativity bias」と呼ぶそうです。
 
例えば、「クリントン」という言葉を聞いたとき、80パーセントの人が、「モニカ・ルインスキー」か「青いドレス」を思い浮かべると言います。良い面よりも、ネガティブな面がまずは想起されてしまう。1つの汚点が、その人全ての評価に大きな影響を与えてしまう。
 
夫婦の間に問題が起こった場合でも、その「1つの問題」を償うのに、だいたい「5つの良いこと」をする必要がある、というような調査結果もあります。
 
こうした「負のバイアス」とは、大昔、生死の危険にさらされた厳しい環境でヒトが生き残るためには、なくてはならないものだったんですね。
 
 
 

ネガティブな思考や感情が引き起こす「反射的反応」

ヒトの脳はネガティブなことにフォーカスしてしまいます。そして、これらネガティブな考えや感情によって引き起こされる反射的反応が、「ファイト・フリーズ・フライト(戦う・固まる・飛んで逃げる)」と呼ばれるものです。
 
あっ、あの木の陰にいるのはライオン?! うわっ、あのカバこちらに向かってきそう! そんな考えが起こると、「戦闘態勢、硬直状態、逃げ出す」といった反射的反応をする、そうすることでヒトは生き残ることができてきたわけですが、この反射反応が、現代のヒトの脳や身体にもプログラムされているといわれます。
 
この「ファイト・フリーズ・フライト」反応とは、かつてヒトの生死を分けるものでした。ところが現代の生活で、さして生死には関係ないと思える出来事、例えば、交通渋滞での運転や、ダイエットや、ニュースの視聴や、家事を切り盛りするや、何かの期限までに支払いを済ませるなどの雑事にまでも、多くの人々が「ファイト・フリーズ・フライト」反応してしまっている。そして、この反応状態が一日中でもノンストップに続いてしまうとき、ヒトはストレスを溜め込み、問題を抱えてしまうのではないか、そう考えられているんです。
 
ちなみに、現代「先進国」で病院に来院する患者の80パーセントが、ストレスに関係する疾患を抱えていると報告されているそうです。
 
確かに、生死を分けるほどの出来事というのは、大昔に比べれば、現代ではそうそうないとも言えます。交通渋滞で足止めになったところで、ダイエットに失敗したところで、死んでしまうわけではありません。それでも、人類は未だに、そうした1つ1つのネガティブな出来事にベルクロのようにフォーカスし、「ファイト・フリーズ・フライト」を続けているというのですね。
 
 
 

「マインドフルネス」とは、問題解決への「糸口の1つ」?

こうして大昔から深く組み込まれた人類の進化の過程を見直し、何らかの新しいあり方を提供できないかという試みが、心理学などでは、アファーメーションを用いたりとする「ポジティブ心理学」などでも行われてきたと言います。また歴史的には、あらゆる文化が、目の前の生死を超えた安心感を提供するための、様々な「宗教的信仰」を発達させてきたものです。
 
「マインドフルネス」とは、こうした「ツールのひとつ」だと、Siegel氏は位置づけます。
 
Siegel氏によると、マインドフルネスとは、
 
1.自らのマインド(思考・感情)パターンの洞察
2.自動的衝動的な「ファイト・フリーズ・フライト」反射反応にはまらない脳のメインテナンス
 
を通し、これまでのヒトの「脳の進化」のあり方に、また違った方向性を提供できるのではないかと言います。
 
まずは、「負のバイアス」を強め、ストレスの基となる「嫌な体験にフォーカスし嫌な体験をことごとく避け、心地よい体験を追い求め、嫌でも心地よくもない体験には無関心」という深く組み込まれた脳の進化のあり方を観、気づいていくこと。そこから、反射反応へと飛びつく前に少し「スペース」が生まれててきます。
 
 
 

 感想

ストレスのルーツは、人類の歴史の99パーセントの期間を占める狩猟生活に見出すことができると言います。野生動物に比べ身体的に弱いヒトが生き残るために必要だった「脳の進化」。時代の変化と共に、新しい方向へとより進化させていく必要があるのかもしれませんね。
 
 
大昔だけでなく、つい何十年か昔に比べても、生死に関わる出来事に直に触れたり体験したりとすることは、随分と少なくなっています。つい一昔前は、日本でも戦争を体験し、死体のごろごろと転がった道を人々は歩いていたもの。
 
「死」が日常から遠ざかって見える現代、だからこそ、人々は、日常の雑事にまでもやみくもに、「ファイト・フリーズ・フライト」と混乱してしまっているとも言えるのかもしれません。日々生死の危険にさらされるならば、日常の雑事は雑事として、もっと腹を据えて落ち着いているのかもしれないな、日々瑣末なことまでにもことごとく「ファイト・フリーズ・フライト」しまくっている自分として思います。
 
明らかに生きるか死ぬかの危険にさらされることの少ない「平和な先進国」に、ストレスに関する疾患が増大する、そんな仕組みを思いつつ。失ってから気づくのではなく、平和である内に、できることをしていきたいです。
 
 
皆様、どうぞよい週末をお過ごしください!
 
 
 

 

 

 

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