あ、分かった!
点と点が一気に繋がって、突如全体像が現れたような。
ジグゾーパズルのピースだけ見て唸っていたのが、一気に完成図を見せられたような。
そんな AHA! な瞬間。
アルキメデスが公衆浴場で「ユーリカ(分かった)!」とひらめいた話は有名ですね。こうした「分かった!」の瞬間が、確かにこれまで様々な技術や思考や意識の進歩をもたらしてきたのかもしれません。
ハーバード大学教授で心理学者シェリー・カーソン氏によると、こうした「ひらめき」のプロセスとは、「何も飛びぬけてクリエイティブな人とか才能がある人に限られたことではなく、普遍的なプロセスというものがあり、そのプロセスを経るならば、誰もが創造的であれるんですよ」なのだそうです
今日は、そんな「創造のプロセス」とされるものを、Scientific Americanの記事「The AHA! Moment」by Nessa Bryceを参考にまとめてみます。
「創造のプロセス」とは、1926年に政治科学者のグラハム・ワラス氏が提唱した定義に基づき、以下の5つの段階と捉えられているそうです。
1.探索(explore)
2.フォーカス
3.醸成(incubation)
4.ひらめき(illumination)
5.確認・貫徹(verification,follow through)
そしてこのプロセスとは、科学であろうと、芸術であろうと、物書きの分野であろうと、普遍的とのこと。
それでは、より詳しく見ていきましょう。
1.探索(explore)
創造のプロセスへの始まりとしては、まず、目の前の物事だけを見るのではなく、オープンマインドで、世界を広くワンダーするような姿勢がよいのだそうです。知的好奇心の赴くままに広く知識や知恵に触れ探索してみる。
物事を前に「どうやって違う方法でできるかな?」と自問し、習慣的な思考パターンに凝り固まらず、自身の快適ゾーンから抜け出すよう仕向けてみて下さいと。
2008年の心理学者クニオス氏の実験では、クリエイティブに問題を解く被験者の脳をEEG(electroencephalography)で見たところ、限られた視覚的アテンションを司る後頭葉(occipital lobe)があまり活発化せず、視覚的アテンションがより散漫であると示していたそうです。
特定の視覚的情報に釘付けになるのではなく、どちらかというと、この人何見てるんだろう? と一見ぼーとしているようにも見える状態。私自身、これまで出会ったクリエイティブな人々を思い出し、ありありとこの姿、想像できますね。(笑)
詩人や物書きが行き詰ったら、ダイビングやダンスレッスンなどしてみることでブレークスルーしたり、アーティストのグレグ・ダン氏が墨絵を学ぶことで、新しいスタイルを生み出したのも、この「探索」というステップを踏んだからとも言えます、と記事では説明されています。
カメラをズームしているところから、引いて全体を見回してみるようなイメージですね。
2.フォーカス
パッションと共に、とにかくとことん取り組む分野を持つこと。
カリフォルニア大学の心理学者キース・シモントン氏が、59人のオペラの作曲者を調査したところ、作曲者の音楽活動に携わる年数が、その成功に大きく関わっていたと言います。
この1と2が、「準備段階」だそうです。自分はこれという分野を持ちつつも、広い知的好奇心を大切に快適ゾーンから飛び出し続ける、足場なしでふわふわと飛び回るのでもなく、足場しか見ないのでもなく。
昔大学院時代の教授の一人が、「何でもね、20年もやり続ければ、それなりの第1人者になれるんだよ」と言っていたのを思いだします。確かに、「この地域の物質文化」など限られた分野に向かい続け、その道の第一人者になっている方何人もいましたね。
3.醸成(incubation)
広い範囲での知的探索を続けつつ、自分はこれという分野にどっぷり浸ったら、「目の前の課題について意識的に考えるのを止めてみる」時間を持ってみるといいとのこと。
問題解決の方法には、大きく分けて「分析的」と「洞察的」の2つあるといいます。この「洞察的」というのが創造的なひらめきによる方法なのですが、分析的に解く人々、洞察的に解く人々の両者に課題を与え、fMRI脳の様子を見てみたそうです。
すると、洞察的に問題を解く人々は、課題に取り組む2秒前に、散漫に外に向かったアテンションを、内側へとシフトしたと言います。内から湧き出るアイデアなどにフォーカスする際、活性化する前帯状皮質(anterior cingulate cortex)が活発になったそうです。対照的に、分析的に問題を解く人々は、後頭葉(occipital lobe)が活性化し、目の前に見ているものによりフォーカスしていたと。
創造のプロセスでは、内面に向かうよう脳をシフトさせることで、無意識のマインドが繰り返していた驚きの解決策を掴むことになるのだそうです。
記事によると、瞑想なども内に目を向けるので、フレッシュなアイデアを生み出すのに役立つとのこと。また、イタリアの研究では、睡眠や全く違うアクティビティーに従事することが、助けになると報告されています。。
ポール・マッカートニーや作家のロバート・ルイス・スティーブンソンは、夢を作品に生かしていたとのこと。シャワー中や、運転中に、いいアイデアが浮かぶというのも、目の前の物事にかかりきりだったマインドがふっと解き放たれるからなんですね。
4.ひらめき(illumination)
ひらめきの瞬間を体験する被験者の脳を、fMRI とEEGで見たところ、右脳の上側頭が著しく活性化していたとのこと。これは、距離のある言葉の繋がりを認識するのに大きな役割を果たす箇所だそうです。右脳には、言葉をより緩く解釈する箇所があり、左脳には、より厳密に解釈する箇所があると。
例えば、右脳では、「猫」は哺乳類と解釈され、「象」とも結びつけて考えられる。左脳では、「猫」は、小さくて、肉食で、柔らかい毛に包まれた哺乳類で、低い鼻と、引っ込めることのできる爪を持っている、と解釈される。すると、「象」とのつながりなど微塵も見出せなくなる。
この右脳の解釈の緩さが、創造力の鍵でもある言います。緩さゆえに、それまで思ってもいなかったような組み合わせ、つまり創造的なものが生まれる可能性があるんですね。
ということで、研究者達が提案するのが、物事をより緩やかに捉えたり、違うアングルから見てみたりすること。例えば、ハンガーは服をかけるもの、とだけでなく、ワイヤーを伸ばしてみるのなら、全く違うものになり得たりすると、ちょっと見方を変えてみる。すると、それまで全く関係ないと思っていた物事と物事が、繋がる瞬間が出てくるかもしれません。
そして3の実験にもあったように、こうした創造的なひらめきを生み出す状態と対照的なのが、特定の視覚的情報に釘付けになっている状態。ということで、目を閉じるなどして視覚情報を遮断してみるのも、ひらめきの助けになるとのことです。
確かに、アルキメデスも、公衆浴場で風呂は身体を浸し汚れを取りリラックスさせるものと目の前の風呂だけを見ていたら、風呂と王冠が繋がることなんてなかったでしょうね。まあアルキメデスの話は、実際この通りだったというより象徴的逸話なのでしょうが、ひらめきの瞬間をよく表していますね。
5.確認・貫徹(verification,follow-through)
ひらめきを体験した後は、大得意になるもの。これまで見てきたような実験でも、課題を与えられた被験者がひらめいて問題が解けた後は、一気に機嫌がよくなったとのこと。
創造のプロセスの最終段階とは、客観的冷静に、その「ひらめき」を吟味すること。脳の箇所で言うと、クリティカル・シンキングを司る、前頭前皮質が活発になる状態。
化学者で2度のノーベル賞受賞者リナス・ポーリング氏に、ある学生が、どうやってそんなたくさんのいいアイデアが浮かんだんですか?と聞いたところ、「たくさんアイデアは浮かぶんだけどね、良くないものを捨てていくんだよ」と答えたと言います。
冷静に客観的に見直し、周りからフィードバックを募り生かし、「ひらめき」をより磨いていくことで、確かに、より深い目的に用いることも可能になっていくのかもしれませんね。
以上5段階。
カーソン氏曰く、「誰もがクリエイティブになれるということを知るなら、新しい世界が見えてきますね」と。
子供達と話し合って取り組みに生かしてみたり、私自身の生活でも今日の夕食はこれ!この子にはこんな教え方がいいかも!今度の記事はこれを書こう!と、生かしていけたらなと思います。
それと、こう見てきて、この創造のプロセス、子育て自体に当てはまるなあと感じたりします。
子供時代というのは、いわば、1の「探索」をしつつ、自分はこれ!という2の「フォーカス」の対象を見出そうとする「準備段階」。知的好奇心赴くままに広く知識や知恵に触れる機会を持ってやりたいですね。「遊び」というのも、まさしくそんな機会であって。子供時代に自由に遊んだ子ほど、柔軟な発想ができるようになるという研究報告もありますが、なるほどなあと思います。
目の前の結果だけでなく、10年20年30年と長い目で見て子供達と接していけたらな、そう思いつつ。
それでは皆様、日本はゴールデンウィークですね、楽しい日々をお送り下さい!