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米国で被害増大、「マダニ」って一体何なの&その対処法

米国東海岸の森と海に囲まれた小さな田舎町に暮らし始めて2週間程。勝手が違うことといえば、買い物やら学校やら様々あるのですが、その中のひとつに、「虫」があります。
 
日本を離れアラスカに暮らす間、一年の大半「虫」に会わない生活に慣れた私、会わないのが当たり前で育った子供達。
 
こちらでは食べ物をテーブルに置きっぱなしにしておけば家の中でもハエやアリがきますし、ガレージや庭の倉庫には大小様々なクモがあちらこちらに巣を張り、車窓からはこれまで見たことがないほど大きな人差し指大のアブが飛び込んできたり、セミやコオロギの大合唱に囲まれての散歩中にはカエルが道案内してくれることもあります。
 
新居に以前住んでいた方がキッチンの隅に置いていってくださったのも、食べ物の上にかぶせる蚊帳や虫駆除スプレー多種でした。
 
そんな「虫」の中でも、東海岸に近づくにつれ我が家でよく話題になったのが、「マダニ(ticks)」
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(マダニ類、blacklegged tick)
 
今日の記事では、米国全体、そして日本でも被害が増加しつつあるという(https://www.m3.com/open/clinical/news/article/265206/)「マダニ」についてとめてみます。「より知る」ことによって、この東海岸の、そして日本の美しい自然を、リラックスして楽しむために!
 
 
 
 

どうしてマダニに注意する必要があるの?

ただ「かゆい」だけならまだいいんですが、マダニの何が問題かというと、中には病原体を媒介するものがいるということなんですね。そんなマダニに噛まれることによってかかる病気の中でも、特にやっかいなのが「ライム病」。1975年のコネチカット州での事例から名づけられた疾患です。
 
抗生物質を用い治療したとしても、10-20パーセント近くの人が、一生神経系疾患の症状などに苦しみ、亡くなる場合もあると言います(友人の知り合いの息子さんが去年亡くなりました)。
 
米国では年に30万人が「ライム病」と診断され、実際の被害はその10倍になるという説もあります(’Americans diagnosed with Lyme disease: Number may be 10 times more than reported’http://www.sciencedaily.com/releases/2013/08/130819182855.htm
 
米国東海岸や内陸北部には、このライム病の原因となる「ボレリア菌」を持つマダニが多いんですね。
「ライム病分布図」
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(Reported Cases of Lyme Disease – United States, 2013, Centers for Disease Control and Preventionより)
 
それでマダニはどこにいるかというと、葉っぱの先、重なる枯葉、生い茂る草など「自然界」。温暖化や森林伐採の影響により生態系が変化したことが、マダニの数の増大&生息範囲の広がりを引き起こしたとされています。そして今ではマダニによる疾患が、米国の大きなヘルス問題になっています。
 
またライム病を媒介するマダニ「blacklegged tick(黒足ダニ)」は、野生の鹿から菌を受け取ることから、「deer tick(鹿ダニ)」とも呼ばれていて、鹿の数を抑えることで、マダニ被害を減らすことができるのではないかという説もあります。
(http://www.sciencedaily.com/releases/2014/07/140701111549.htm)
 
 
 
 

東海岸ではマダニがすぐ身近に生息

15年間マダニついて研究を続けてきたインディアナ大学教授キース・クレイ(Keith Clay)氏は、「とにかく車に乗る前にもシートにマダニがいないか確認しましょう」とさえ言っているのですが(http://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150511085526.htm)それでも私自身こちらに来るまでは、「マダニって、アラスカの熊のようなものでしょ」と思ってました。
 
つまり、外から見るとアラスカは熊だらけの地として恐ろしくも見えるのだけれど、実際暮らしてみるのなら、家の近くはもちろん、山へ行ってもめったに会うこともない。
 
ところが、こちらに到着し、この家を世話してくださったエージェントの方と話していると、「マダニの被害は東海岸では頻繁にあるのよ。この家も森に囲まれているし、子供達外に出たら、必ず体についてないか調べてね。あなた達は髪が黒くて頭部は見つけにくいだろうから特に気をつけて。私の夫もね、ライム病なの」と!
 
近所の方々も、「庭で遊んだ後は、子供達チェックしてね」と口を揃えて。近所の子供達も、噛まれたけどライム病にならないですんだ!ベッドの上を歩いていたのを掴まえた!など、マダニ体験頻繁にあるようです。
 
 
 
 

マダニの吸血の仕方がこれまた特徴的

初めてマダニについて聞いたのは、長男が2年前ペンシルバニア州でのレンジャー養成サバイバルトレーニングに参加した時のことでした。講義でこのマダニについて教えられたと長男が図解を示しながら話してくれ、他の子達と「うひゃー」と叫んだのを覚えています。
 
まず、動物なり人なりの身体表面を10分から2時間近くかけて吸血箇所を探して這い回るといいます。そして、よしここね!と決めると、その箇所に頭部をのめりこませ、セメントのような分泌物で固めます。数日そのままでいることも!あるそうです。膨らみのあるほくろのような黒い点(胴体)から毛が何本か(手足)生えているようなものを見つけたら、それはマダニが血を吸っている状態。
 
長男も吸血箇所を探し首辺りを這うマダニをサバイバルキャンプの2週間中1度見つけたといいます。そして参加者の1人の子は、ライム病にかかってしまいました。
 
 
 
 

マダニを剥ぎ取る方法

この「膨らんだホクロから毛が生えたもの」を見つけたら、密封できる容器と先の尖ったピンセットを用意し、根元から真っ直ぐ抜き取るようにします。捻ったりして胴体部だけ取れてしまうと、口部が残り菌が体の中に入ってしまう場合もあるとのこと。
 
マダニが頭部をのめり込ませたまま24時間以上しないと菌が影響を与えることはないとも言われます。また吸血すると、ブドウくらいに膨れることもあるとのこと。
 
 
 
 

マダニのサイズ

こうして「ブドウ粒」くらい大きくなってくれたら分かり易いですが、マダニは成虫で5ミリ、幼虫で1ミリから2ミリと言います。基本的に、腋や膝の後ろなど柔らかいところが好きだそうで、頭部や耳の裏や中や、へその中に落ち着くなんてこともあるそう。
 
1ミリぐらいのマダニが頭部やへその中に入り込んだら、もう分かりゃしませんよね・・・。へそゴマだと思うでしょう。
 
「ライム病」にかかった多くの人々が、「マダニに噛まれた覚えがない」と言うそうです。
 
ですから例え噛まれた覚えがなくとも、bull’s-eye rush(牛目発疹:「ターゲット」のマークみたいなとても特徴的な形をした遊走性紅斑)が出たら、すぐに病院へ。
 
治療は早ければ早いほど効果的といいます。噛まれて24時間以内なら最も良いと。近所のみなさんは、「噛まれた後、腫れてきたら病院へ」とおっしゃってました。
 
 
 
 

予防法

・生い茂る草地や重なる枯葉地帯や森に無防備に分け入るのを避ける。
 
・トレールは真ん中を歩く。周りの葉っぱや草をむやみに触らない。
 
・肌の露出を避け、黒い服など暗い色の服より、マダニが這っても分かり易いよう明るめの色の服を身につける。ズボンは靴下に入れるのがいい。
 
・自然探索前には、ペルメトリン(Permethrin)を含んだ服を用いたり、靴や衣服にペルメトリンを吹き付ける。
 
・また虫除けスプレー(20から30%のDEETを含むもの)を振りかけるのもいい。
 
・庭仕事や自然探索の後は身体をくまなくチェック。1人では見えないところに目が届くよう、鏡を用いたり、ペアになってチェックするのがいい。
 
・犬の散歩も注意。犬は飼い主をどんどん茂みにひっぱったりするため。犬についたマダニが人へということもあります。犬や猫には、定期的にマダニ除去薬を与えること。
 
・自然探索などから帰宅したらすぐにシャワーを浴び、衣服を乾燥機に入れる。
 
(参考資料:インディアナ大学サイエンティスト http://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150511085526.htm
Centers for Disease Control and Prevention http://www.cdc.gov/ticks/avoid/on_people.html
 
 
こう書きながら、ああ、マダニフリーのアラスカの森が懐かしいです。何ら構えることなく茂みに分け入って、森を転げまわったあの日々。
 
 
 
 

近い将来マダニ被害を防ぐことができる?

マダニを媒介としたこれまで見たこともない菌が出てきたなんて研究もありますが、
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150422165037.htm
 
近い将来、ライム病に効果的な新しい薬が開発されるだろうという研究もあります。
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141103142203.htm
 
コミュニティーが一丸となって、まずは各家の庭からマダニを駆除しようという意見もあるようです。
 
 
 
 

先週の出来事

シャワーを浴びて、ふとふくらはぎを見ると、見慣れぬ黒い点。
よく見ると、ほくろでもなく、ちょっと膨らんでます。
 
!!!
 
でも手足がないなあと思いながらも、長男に密封できるジャーと、ピンセットを持ってくるよう頼みました。
 
「種ダニというのもいるらしいからね(のめりこむと手足が見えない)、ダニかもね。種ダニはライム病を媒介しないらしいけれど」と長男。
 
「頭部を残さないようにね、根元からね」と声をかけ。
 
長男、ピンセット片手に、
「最近ママ、マダニについて調べてたからねえ、こういうの、まさしく『引き寄せの法則』って言うんじゃない」
などぶつぶつ言いながら、黒い突起物を根元から抜こうとしてくれること5分ほど。
 
「とれた!」
 
ジャーに入れます。
 
 
長男:「動かないね。はがしても手足ないし。写真見ると小さくても手足あるみたいなんだよね(アイフォンで調べながら)」
私:「ホント、だね」
長男:「これって、ただのかさぶた・・・」
私:「みたいね・・・」
 
 
「かさぶたみたいなものをはがしたらマダニだった」、という体験者も多いようですが、
今回はどうも、本物の「かさぶた」だったようです。
 
 
他の子たちも、え、ダニ見つかったの?と、わらわら「かさぶた」を見に集まってきました。
 
皆で笑い転げ。
 
 
神経質になり過ぎず、できることを淡々としていけたらなと思います。
 
 
 
 
 
温暖化や森林伐採やと人間がもたらした生態系への変化が、
結局、人へのマダニ被害を増大させることになったわけですが、
自然と人が、うまく共存していく道が探られていくことを願っています。
 
 
裏庭の森:
IMG_3786
 
 
それでは皆様、素敵な晩夏の日々をお過ごしください!
 
 
 

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