大統領選の結果が確実となった翌日に、『マイコー雑記』に載せた記事へ加筆し編集しました。
現在、米国各地で、「トランプ氏を大統領とは認めたくない!」運動が起きてます。まさしく国が分断されてしまったかのよう。「こんな人を国の長として見上げたくない」という気持ち、私自身よーく分かります。トランプ氏の言動は、やはりそれだけ多くの人々のバリューやアイデンティティの根幹を傷つけてきましたから。
「4年も続かないだろう」という声も聞かれる中、さてどうなるのか。超楽観的にとらえてみたとして、「エスタブリッシュメント(既成の政治体制を司る層)」とは違った角度から、「よりよき方向」へと大胆な改革がすすめられることもあり得るのでしょうか?
見守っていきたいです。
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昨日は学校関係者や親の集まりにと、一日中走り回っていたんですが、これほど有権者にショックを与え、失望と先行きの不安を煽る大統領というのは、これまで17年間米国に暮して初めてだなあとしみじみ思ってました。
子供達のクラスでも、先生は本来、政治的立場を示すことは好ましくないわけですが、「本当にひとりひとりが未来を大切に考えて投票したとは思えない」とこぼしていたり。
「トランプ氏を選ぶなんてアメリカ国民は何してるわけ?」
そんな世界中からの声も聞こえる中、身近な周りの様子をお伝えするなら、「やりきれなさ」に溢れているといったところでしょうか。
では、どういう人々がなぜトランプ氏を支持しているのでしょう?
1.まずは、移民やマイノリティーに生活を脅かされると感じる白人層でしょう。そうした「米国の急激な変化に取り残された or 取り残される」と感じる人々が、トランプ氏こそ「古きよきアメリカ」を取り戻してくれると期待しています。
その中には、インフラ整備やモノの大量生産に関わる肉体労働や工場労働に従事する人々、またはそうした労働者を管理することで、高い給料を得ることができていた or できている人々もいます。
そうした労働は、いずれは人工知能にとって代わられる日もくるかもしれませんが、今は低賃金で移民が従事しています。移民並みの賃金で働くか、職を失うかの選択の中で、苦しい生活を強いられ、もしくは、強いられるかもしれないと恐れているのです。
大統領選の勝敗を分ける「鍵の州」とされていたペンシルバニア州などにも、移民により職を失った工場労働者の怒りが渦巻いています。
トランプ氏は、大統領選後のスピーチで、
「今まで忘れられたあなたたちが思い出されるときがきました。どんどん道路を作り、学校を建て、インフラを整えましょう」
と言ってました。1930年代のニューディール政策のようなやり方で、仕事を作り出そうというわけです。
こうした人々にとって、生活が困窮する中で、「マイノリティーの権利確保」などと掲げられても、たまったものじゃありません。移民に目の前の仕事を奪われたと感じ、移民への嫌悪やさけずむ気持ちも強いです。
そして、底辺をさまような暮らしの中で、ふと見上げるなら、「エスタブリッシュメント」層が、「いい暮らし」をしています。しかも、エスタブリッシュメント層と深い繋がりを持つ米国のトップ大学には、今では世界中から人材が集まり、その中には、「ネットワーク」の恩恵を受け「移民なのに」米国で専門職につき豊かな暮らしを送る人々もいます。そうして治安もよく公立学校も充実した地区(居住区によって公立学校の質はかなり違ってきます)に住み、そのためその子供達もいずれ専門職につき「いい暮らし」ができる可能性もより高くなります。
何10年も米国政治に関わってきたクリントン氏は、こうした「米国の急激な変化」に加担した存在にしか映りません。自身もアイビーリーグ校卒業の高学歴エリートですし。
この学校システムのトップに昇った一部に富が集中してしまうシステムは、確かに、改善されるべきものですね。
そこへ、トランプ氏が現れ、過激で分かりやすい発言を繰り返し、「古きよきアメリカ」を取り戻してくれると言います。
偏見に満ちたあらゆる「政治的に正しくない」発言も、「男女平等」や「マイノリティーの権利確保」や「人種差別撤廃」などの思想を共有するエスタブリッシュメント層を含む「アメリカの変化を促進する側」への挑戦として、「よくぞ言ってくれた!」と拍手喝采で受け入れられます。
「男女平等」や「マイノリティーの権利確保」や「人種差別撤廃」なんて、「古きよきアングロサクソン帝国アメリカ」を壊し、ますます生活を困窮させるものでしかありませんから。
でも、歴史を振り返るなら、アングロサクソンも、元々移民なんですよね。
つまり、国も文化も変化し続けているわけです。
実は去年1年暮した地では、いたるところに「トランプ支持」のサインが立っていました。
近所でも、肉体労働者を管理する経営者の方が大きなサインを掲げていました。マイノリティーを低賃金で雇い、移民や黒人へも、いい感情を持っていません。
トランプ氏の存在は、それまであからさまには公にすることのなかったこうした人々の気持ちを団結させ、大声で叫ばせることを煽っていました。「膿みだし」作用ともいえるかもしれません。
こうした「古きよきアングロサクソン帝国アメリカ」を期待する人々と共に、以下のような人々や状況も、トランプ氏当選を実現させてしまいました:
2.経済が落ち込む中で、現状に不満を持つあらゆる層の人々が、反エスタブリッシュメントを理由にトランプ氏へ投票。
3.「中絶反対」「同性愛者反対」といった宗教的な理由から、民主党政治がすすめた「変化」を許せず、トランプ氏支持。トランプ氏は「中絶には罰を与えるべき」という発言をしています。子どもたちの高校のクラスでも、熱心な「中絶反対」の生徒が、「自分は移民だけれど、トランプ氏を支持する」と運動していました。
4.また、実は身近な周りで最もよく聞かれた言葉が、「クリントン氏にもトランプ氏にも票を入れたくない」という声でした。バーニー・サンダース氏との間で起こった民主等候補選でのイザコザやシリア問題などに影響を受けたクリントン氏の不人気も、結果、トランプ氏当選へ貢献しました。
トランプ氏のこれから
移民、イスラム教徒、障碍者、女性などの「マイノリティー」に対し、偏見を煽る言動を繰り返すことで、トランプ氏支持のマジョリティーを成す「変化に取り残されたor取り残されると恐れる白人層」の票を集めたトランプ氏。
当選後のスピーチで、にこやかな微笑を浮かべながら、「国民一致団結して、全ての国民にとって偉大な国にしよう」と言われても、やっぱりすぐには、ついていけやしないですよ。
クリントン氏当選確実とされるなかで、トランプ氏が勝つといい続けた映画監督のマイケル・ムーア氏は、「トランプ氏が勝つと知っていたのは、トランプ氏を支持する人々の渦巻く怒りを肌で感じて育ってきたからです」としつつ、「皆、トランプ氏に騙されている」と言います。
選挙後ムーア氏が予告したのが、「これからのファシズムは、友好的な笑みをたたえながらやってくる」というもの。
トランプ氏をヒトラーと並べた写真も出回ってますが、「イスラム教徒にカードをもたせる」なんていう過去のトランプ氏の「提案」も、何らナチスと変わりませんからね。
ムーア氏、そして、同じくトランプ氏が勝つと予想したワシントンDCを基盤に活動するAllan Lichtman教授も、「トランプ氏は4年任期の途中で弾劾されることになる」と予想しています。
ムーア氏曰く、「トランプ氏は、あまりにも自身の利にしか興味がないので、必然的に違法行為を繰り返すでしょう」と。
Lichtman氏曰く、「共和党は、コントロールできないトランプ氏ではなく、党の理念により従う副大統領のペンス氏に指揮をとらせたいから」とのこと。
また、大統領選キャンペーン中に様々な計画を口にしてきたトランプ氏。当初にくらべ、次第に姿勢を和らげていきました。当選後のこちらの60分間インタビューでも、「メキシコ国境に壁を建てる→ところどころフェンス、オバマケア即効撤廃→部分的に残す、クリントン氏を刑務所へ送る→自分には他に仕事がある、不法移民者は全て追放→罪を犯したものを送還」など、以前に比べ随分とゆる~~い政策になってます。
この調子だと、「壁を建てる!」「ヒラリーを刑務所へ!」と叫び続けてきたトランプ氏支持者の間からも、いずれ不満がでてきますよね。
子供にどう伝える?
子供達も、これまでさんざん、トランプ氏の偏見に満ちた言動を観てきてます。周りのメキシコ人やイスラム教徒のお友達が傷つく様子を、子供達も肌で体験してきています。そんな人物を国民が選んだということ。
ネットにも、「はたして子供になんて伝えたらいいのやら」といった記事が出回っています。
・米国には、言論や思想の自由がある。
・米国は、独裁政治でなく、権力を分割する民主政治システムが整っているから、民主主義に反することは、実行できない仕組みになっている(今後この仕組みの有効さをはかる4年間になるでしょう)。
・移民やマイノリティーも、同じように税金をおさめ国を支える人々。権利を尊重し、同じ人としての尊厳を尊ぶ。
・おかしいなと思ったら声を上げていく。
こうしたことを接する子供たちに伝えていけたらなと思っています。
我が家でも上の子達は、ネットのニュースをみたり、公民や歴史などの授業でディスカッションしたりと、今回の大統領選について、自分なりの意見を持っているようです。
長女は、「『自分はトランプを支持する』と聞いた途端、その相手のイメージががらりとネガティブに変わってしまう自分に気づいていこうと思う」と、
長男は昨日、「国全体がトランプ氏に騙されてる。彼は、国をどうのっとるかについてのハウツー本書くといいよね」と皮肉。
これからひとまず4年間、子供達と共に、米国、そして世界の状況を、できることをしつつ見守っていきたいと思っています。
みなさん、今日もよい日をお送りください!