マインドフルネス

「慈悲心」を高めることが心身共に健やかである鍵?3つの動機付けシステム

018昨今、神経科学、心理学、心理セラピーなどの分野で、well-being (健やかさや幸福さ)にとっての鍵の1つと注目されている感情に、コンパッション(compassion)があります。そう、ハーバード大学医学部教授心理学者のロナルド・シーゲル氏

 
コンパッションとは、エンパシー(共感)の中でも、特に苦しみや悲しみなどのネガティブな感情に寄り添う気持ちです。ラテン語のcom(一緒に)+ pati(苦しむ)を語源とし、日本語では、「哀れみ」や「慈悲」などと訳されますね。
 
他者、そして自分のネガティブな感情に寄り添う気持ち、コンパッションを高めること、それがなぜより健やかでハッピーである鍵の1つなのでしょうか?
 
 
まずはヒトの進化の過程を神経生物学的に見てみると、コンパッションについてより理解する助けとなります。
 
(以下、ロナルド・シーゲル氏の講義 ‘The Science of Compassion and Self-Compassion’  Science of Mindfulness:  A Research-Based Path to Well-Being, The Great CourseTheを参考にまとめたものです。)
 
 

3つの動機付け(motivational)システム

神経生物学では、ヒトを動機付けるシステムには以下の3あるとされています。
 
1.戦う・逃げる・固まるシステム (fight-or-flight system)
以前ストレスの記事にまとめましたが(「ストレスのルーツ、脳の進化とこれから」)、人類の歴史の99パーセントの時期を占める「狩猟採集」時代に培われたシステムです。生存への脅威にフォーカスし、保護と安全を求めます。「戦う、逃げる、固まる」といった反射的な反応を引き追こし、怒り、心配、不安、恐れ、嫌気などの感情を伴います。
 
2. 達成感やゴールを目指すシステム ( achievement/goal-seeking system)
何かを達成する喜びや快楽を求める時に、活性化されるシステムです。興奮感を伴い、生き生きとした活力を生み出します。
 
3.他者の役に立ち友になろうとするシステム (tend and befriend system)
特に哺乳類の間で活発なシステムとされます。満たされた気持ち、安心感、繋がり感などを伴います。癒しをもたらし、健やかさや幸福感を生み出します。このシステムの根幹に、他者の苦しみや悲しみを緩和するために、どうにか役に立てないかという気持ち、コンパッションがあります。
 
 
またこれら3つのシステムは、それぞれ脳の特定の部分に関わることが分かっています。
 
1.戦う・逃げる・固まるシステム 
側頭葉内側の奥にあるアーモンドの形をした扁桃体(amygdale)が活発になりアドレナリンが生産活性化されます。
扁桃体は、情動反応の処理と記憶において主要な役割を持つとされ、物事が危険かどうかを察知する役割を担っています。
 
2.達成感やゴールを目指すシステム 
前脳に存在する神経細胞の集団、側坐核(Nucleus accumbens)が活発になり、ドーパミンを生み出します。即座核は、報酬の獲得、ゴール達成の他にも、クラックコカインや様々な快楽などによっても活性化することが分かっています。
 
3.他者の役に立ち友になろうとするシステム 
内分泌器官である脳下垂体が活発となりオキシトシンが放出されます。オキシトシンは、闘争欲や恐怖心を減少させます。
 
 
多くの場合、1と2のシステムが活発だと、3のシステムは押し切られ大人しくなると言います。これは、よく分かりますよね。自らの生存に関わるシチュエーションでは、他者のニーズなど後回しになることが多いでしょうし、ゴールへ向かって邁進していたり野心に燃えている場合も、周りよりとにかく自分が抜きん出るぞと進みがちです。そこで、この1と2のシステムが静まると、3がより活性化し始めるんですね。
 
それでも、1と2のシステムが活発であっても、3のシステムが前面に押し出るような場合もあると言われます。自らの命や出世などよりも国や信条などの枠組みで「役に立とう」とする戦場や、愛し合う恋人間、思いやる親子間では、たとえ1と2のシステムが活発となるシチュエーションでも、3のシステムの活性化が見られます。
 
 
 

注目されつつある「他者の役に立ち友になろうとするシステム」。

今日、病院を訪ねる人々の80パーセント近くがストレスを原因とする病を抱えていると言われます。ストレスの原因とは、厳しい自然環境で猛獣に囲まれているわけでもなく、生死に関わる出来事もそうはない現代のような状況でも、狩猟採集時代に育まれた1の「戦う・逃げる・固まるシステム」が活発に反射反応しまくるため、とも考えられています。
 
何かの締め切りや、交通渋滞や、コンピューターのフリーズなどにまで、「ファイト・フライト・フリーズ」で反射してしまう。命に関わるわけでもないのに、1日中、怒り、不安、嫌気といった感情を伴うこの「戦い・逃げる・固まる」を繰り返していることから、ストレスが溜まってしまうと言うのですね。
 
また現代、こうした溢れるストレスに扇がれ、ワーカホリック的にゴールを目指し達成感を味わおうとしたり、とにかく目先の快楽を手に入れるために躍起になったりと、2の快楽追及システムも大いに盛り上がっていると言います。
 
それでも、ゴールに到達しようが、何かを達成しようが、様々な快楽を手に入れようが、心が満たされず、メンタル面に問題を抱える人が後を絶たないわけです。
 
そこで、昨今3のシステムが注目されているんですね。そしてその根幹となるコンパッションが、人がはまり込んでしまうメンタル面の問題に、とりわけ有効だとされています。
 
 
 

人が陥る「3つの苦しみ」(unholy trinity)

何かうまくいかなかったり、失敗したり、不幸に見舞われたとき、人は、以下の「3つの苦しみ」状態に陥るとされています。
 
a.自己非難 (self-criticism)
何であんなことをしてしまったんだろう。自分はなんてだめなんだ。自分なんて役立たず。などと自分を責める。
 
b.自己を他から孤立させる(self-isolation)
自分は相応しくない、どうせ自分なんていてもいなくても、と他から孤立する。
 
c.自己の思考感情にはまり込む(self-absorption)
何であんなことをしてしまったのか、自分がいかにだめかという思考や感情を反芻し、はまり込む。
 
 
この「3つの苦しみ」から抜ける「解毒剤」が、「自身へのコンパッション」(self-compassion)と言います。
 
aの自己非難へは、自己への思いやりを意識的に培うこと。
 
bの自己の孤立には、誰もが失敗や喪失感を経験するという人間性の共通点への気づきや思いやりを意識的に培うこと。
 
cの自己の思考感情へのはまり込みには、自身や他者への思いやりと同時に、今この瞬間瞬間の体験に注意を向け、「私」や「私のもの」といった「語り」を抜ける (マインドフルである)。
 
こうして自身や他者の至らなさへのコンパッション、「哀れみ」や「慈悲心」が、「3つの苦しみ」から抜けることを助けるんですね。
 
痛みの最中で、自身に対し思いやりをもつコンパッションとは、苦しみや悲しみを避けるのでも抑え付けるのでもなく、苦しみや悲しみをありのままに受け入れるスキルであり、平静を取り戻し、落ち着く(equanimity)スキルでもあります。
 
また自身へのコンパッションとは、「自己評価を上げる」ことや「ナルシズム」や「自己憐憫」とは全く違うものだと研究されています。自己評価が他者と自分を比較し自らを立たせる、ナルシズムや自己憐憫は自己への埋没であるのに対し、自己へのコンパッションとは、自分と他者の枠組みを超える方向へと向かいます。
 
 
 

コンパッションがなぜ大切なのか?

ここまでの話、少し整理してみます。冒頭の問いにある、他者、そして自分のネガティブな感情に寄り添う気持ち、コンパッションを高めること、それがなぜより健やかでハッピーである鍵の1つなのでしょうか?
 
それは、コンパッションとは、ストレスの要因となる1の「戦う・逃げる・固まる」システムと、快楽の追及だけでは結局は幸福感から遠ざかってしまう2の「達成感やゴールを目指すシステム」を静め、健やかさや幸福感をもたらす3の他者の役に立ち友になろうとするシステム」システムを活性化させるためと言えるんですね。
 
コンパッションが人の陥る「3つの苦しみ」の解毒剤となるのも、このためです。「3つの苦しみ」とは、1の「戦う・逃げる・固まるシステム」にはまり込んだ状態とも言われます。aの「自己非難」は「戦う」、bの「自己を孤立させる」は「逃げる」、cの「自己の思考感情にはまり込む」はまさしく「固まる」です。そこで自身へのコンパッションを意識的に高めることで、1のシステムをより静め、3のシステムをより活性化していくことにより、「3つの苦しみ」を抜ける、というわけです。
 
 
といって、1と2のシステムは必要ないということではなく、1、2、3のどのシステムも、人類の生存に欠かせない動機付けシステムです。大切なのは、1と2と3の間で、うまくバランスを取っていくことなんですね。そしてコンパッションとは、3のシステムを活性化させることにより、1や2のシステムへの偏りを調整するための鍵、というわけです。
 
こうしたコンパッションを意識的に培っていくことは可能、そう様々な研究が示しています。
 
 
 

コンパッションを培うには?

マインドフルネス専門家でもあるシーゲル氏は、コンパッションを培う様々なトレーニング法を紹介していますが、その中にこんなものがあります。
 
11世紀のインドの仏教の師Atisa氏が考え出したチベット仏教を基にする「tonglen」と呼ばれるものです。tonglenとは「giving and taking」を意味しているそうです。
 
吸う息と共に、痛みや悲しみを吸い込み、吐く息と共に、思いやり・温もり・善意を吐き出すとイメージするというシンプルなものです。本能的に感情的不快さと戦おうとする人の性質を、逆転させる効果があると言います。
 
また様々あるコンパッションを培うトレーニングでは、落ち着いていること(equanimity)が大切と言われています。自身または他者の痛みや苦しみに寄り添う最中にも、落ち着いていること。
 
それには、「全ての人は、その人自身の人生の旅の途中にある」「私が他者の苦しみの原因ではない」「苦しみを緩和できるかどうかは、完全に私自身の力の範囲にあるわけではない」といった文句を試してみるのがいいと、シーゲル氏は提案しています。
 
自分が全て背負い込もうとするのではなく、その人自身の力や歩む道を尊重しつつ、自分に出来る範囲で、ということですね。
 
 
 

マインドフルネスの役割

マインドフルネストレーニングは、1と2のシステムを落ち着かせ、3のシステムを活性化しコンパッションを培うと示す研究が多くあります。
 
昨年の今頃、米国タイム誌が「マインドフルネス革命」と特集を組み、ビジネス界から教育界でもますます注目されているマインドフルネスには、こうした、3の「他者の役に立ち友になろうとするシステム」動機付けシステムを活発にすることで、人類に新しい流れを生み出せないかという期待があるのですね。
 
曖昧な理想主義や、絵空事のユートピアを目指すことから一歩踏み込み、人々がよりハッピーであるための新しい道筋を築いていくこと、マインドフルネスは、続々と報告される科学的根拠や具体的メソッドに基づいて、それを可能とする一つのツール、なのでしょう。
 
私自身随分と助けられてきていますが、実践探求を続けつつ、より伝わりやすい形を整えていきます!
 
 
 
 
 
 
生死に関わる反射反応を司る「戦う・逃げる・固まるシステム」
 
生き生きとした活力を生み出す「達成感やゴールを目指すシステム」
 
健やかさや幸福感をもたらす「他者の役に立ち友になろうとするシステム」
 
コンパッションを培い、3つのシステムの間で、うまくバランスを取っていきたいですね!
 
 
 
それでは皆様、今日もよい日をお送り下さい!
 
 
 

 

 

 

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