行為を導くメソッド

こちらの小学校の報酬制度がすごい!報酬の明暗&家庭での取り組み

こちらに越して以来、三女と次男の小学校に関わる日々なんですが、アラスカでこれまで9年近くお世話になった小学校との違いに、えっ?!と驚くこともしばしばです。今日は、その中でもかなりカルチャーショックを受けた「報酬制」についてまとめてみます!
 
 
 

三女と次男の小学校で用いられている「PBISプログラム」

この小学校では、「ポジティブな行為への介入とサポート(Positive Behavioral Interventions and Supports: 以下PBIS)」というプログラムを用いています。
 
以前こちらの記事「子供の行為を導く最強メソッドとは?」にも紹介したのですが、昨今の研究では、「ネガティブな行為」に最大限の注意を向けたり罰したりとするよりも、「ポジティブな行為」により注意関心を払うことで、子供の行為を導いていく方が効果的、そう報告されています。PBISは、そうした数々の研究に基づき、「君のポジティブな行為に気づいているよ!」と示すことに力をいれています。
 
私自身振り返ってもそうなんですが、何も問題なく物事が進んでいる時には「当たり前」として過ごし、何かができなかったり問題が起こったりとしたときに、「なにしてるのー!」「そんなことしてだめでしょー!」と叱ったりと「最大限の関心」を払ってしまいがちです。それでも、その「問題なく進んでいる」時に、「仲良く遊んでくれて助かったわ」「朝の準備スムーズにできたね」などと一つ一つの行為を「認め」てやる。子供にしてみると、確かに、あ、できてない時だけじゃなく、普段もちゃんと見てくれてるんだなあと安心するでしょうね。「最大限の注意」をひくために悪さするなんてことも、減るでしょう。
 
 
 
 
 

「君のポジティブな行為見てるよ!」に溢れる学校生活

そこでこのPBISを用いた小学校の様子なんですが、「ポジティブな行為」を認める機会やそれらの行為への報酬に溢れているんです。
 
例えば、

・足跡カード

日常的に「ポジティブな行為」が認められるたびに、犬の足跡がついた「足跡カード」がもらえます。それらを集めた数によって、特別なイベントに参加できたり賞品がもらえます。前回の週1回のチェスクラブでも、「今日は話し声が少ないねえ」と講師の方が言った途端、傍にいた先生が教室の1人1人に「足跡カード」を配ってました。

・V.I.S.A (Very Important Student Award)

「常に正しい選択をし、皆の模範となる生徒」と認識されると、学校にいる間、首からメダルをかけて過ごします。「足跡カード」を集めることで参加できるイベントなどにも、自由に参加できます。

・スマイルフェース

次男1年生のクラスでは、1日の終わりにその日の行為を振り返り、スマイルフェース、無表情フェース、悲しいフェースの三段階の評価をもらいます。この「スマイルフェース」をひと月毎日もらえると、月末にお菓子がもらえたり、担任の先生からランチをご馳走になったりします。

・ベストなバスライダー

週に1度、バスの運転手が乗車する生徒の中から最も態度のよかった生徒を1人を選びます。校内放送で名前が呼ばれます。
 
 
 
そして、親を招いて全校あげての表彰式も毎月末あります。
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そこでは、以下のような賞状や報酬が渡されます。
 

個人単位の賞

・ヒーロー賞(各学年1人)

お友達皆が楽しく遊べるよう思いやりを持てたで賞。廊下に顔写真が貼りだされます。

・今月の生徒賞 (各クラス3人)

クラスの模範で賞。信頼できる、他者を重んじる、責任感がある、市民としての行動ができる(citizenship)、思いやりがある、などが評価されます。

・特別クラス賞

音楽、アート、体育、コンピュータなど特別クラスの先生がそれぞれ授業態度がよかった生徒を各学年1人選びます。
 
 

クラス単位の賞

(1学年4クラスの中から1クラス選ばれ、エキストラの休み時間やピザパーティーなどの報酬がもらえます)

・ランチの間行儀良かったで賞

食事中静かに後片付けもきちんとできたクラス。

・リサイクル賞

リサイクル量が最も多いクラス。

・出席率賞

クラス全体の出席率が最も高いクラス。

・特別クラス賞

特別クラスの授業態度が最もよかったクラス。

・算数スコアトップ賞

その月の算数テストのスコアの総計が最も高いクラス。

・全校集会しっかり聞けたで賞

最も行儀よく聞けたクラス
 
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その月の何らかの個人賞に選ばれると、事前に「あなたのお子さんが選ばれましたのでセレモニーへ出席してください」という通知が来ます。賞の数が数だけに、学校の駐車場も駐車場所がないほどの込み様。講堂には、校長、各担任が並び、後ろの座席では、カメラを手にした保護者が見守ります。
 
 
 
 
 

ポジティブな行為を認め、賞状や報酬を与えるということ

「期待する行為を教え報酬を与えることは、悪さするのを待って対応するよりもはるかにポジティブなアプローチ。学校をあげてのPBISの目的は、こうした行為が普通であるという環境を定着するためにあります」と米国教育省によるPBISセンター。(https://www.pbis.org/)。
 
子供の心理としても、悪いことしたら怒られるし罰があるからしない、というよりも、いいことしたら認められるし褒美ももらえるし嬉しいからしよう、となるのかもしれませんね。
 
PBISの基となる「ポジティブな行為を強調することで子供の行為を導く」というメソッドを学区学校あげてシステマティックに実用化する動き。確かに、小学校全体の雰囲気も明るく活気があります。廊下にごみが落ちていると、自分が落としたのでなくとも拾うなんて生徒がたくさんいたりするんです!
 
 
ポジティブな行為を一つ一つ認め、賞状や報酬を与える。「当たり前」と通り過ぎてしまうようなポジティブな行為を認め励ましていくことは素晴らしい!と思います。ただ「子供に報酬を与えること」については、これまで賛否両論の説が諸々あり、普段私自身も少し気をつけていきたいなと思っています
 
そこで、「子供に報酬を与えること」について、少し整理してみたいと思います!
 
 
 
 
 

報酬を与えることのメリット

・モーティベーションが高まる

目の前にニンジンがぶら下がっていれば、何とか食らいつこうと馬が全速力で走るように、トロフィーや賞状やスイーツなどがもらえるとなれば、先生の言うことをきちんと聞いて、いいことをしよう!という気持ちも高まるでしょう。
 

・習慣づけ

こうして「ニンジン」を追いかけ、ポジティブな行為を繰り返すうちに、いつしかこうした行為が「習慣」になるということもあるでしょう。習慣にしてしまうには、実際に行為を繰り返すことが最も効果的。「行動は習慣を作り、習慣は人格を作る」ですね。
 
 
 
 
 

報酬を与えることのデメリット

・内的モーティベーションが外的モーティベーションに抑えられる?

私自身もそうなんですが、他の親御さんと話していても、報酬を与えることへの懸念には、「そもそも人に親切にしたりルールを守って皆が快適に過ごせるようにするというのは、報酬のためにすることじゃないのだけれど、報酬を与え続けていると、じゃあ報酬がないならしない、とならない?」というのがあるようです。そして実際そうした危惧をサポートする研究もいくつかあります。
 
・心理学者Felix Warneken 氏と Michael Tomasello 氏は、20か月の幼児を以下の3つのグループに分けトレーニングしたと言います。
人を助けたら:
1.物質的報酬を与える
2.言葉で褒める
3.何の報酬もなし
その後、見知らぬ人を助ける機会を与えたところ、1と2の幼児に比べ、3の幼児はより助けることが少なかったと言います。
 
・年齢が上の子を対象にした研究でも同じような結果が報告されています。アリゾナ州立大学心理学者Richard Fabes 氏率いる研究では、小学校2年から5年までの生徒に、積まれた色紙を分けるタスクを与えます。そして「これは、入院した子供を助けるための作業です」と伝えます。その中の何人かの子供には、「作業をすることで、報酬に玩具がもらえる」と教えます。その後、同じタスクを与え、今度は「入院した子供のため」とも「玩具がもらえる」とも言わず、単にボランティアとしてタスクを与えます。すると、前回玩具を与えられた子の方が、より少ない時間を費やし、より少ない量しか作業しなかったと言います。Fabes 氏は、「親が日常的に目に見える報酬を家庭で与えていると、動機が削がれるのでは」と提議しています。
 
こうした研究を踏まえ、生物人類学者Gwen Dewar氏は、「ヒトに元々備わる『他人を助けたい』という気持ちが、外的な報酬により弱められる場合がある」としています。
 
 

・報酬を与えることが逆効果に?

またDewar氏は、以下のような場合も、報酬を与えることが逆効果になると言います。
既にやる気満々な場合
内的な喜びが、報酬をもらう喜びに取って代わられてしまう。
事前に報酬が約束されている場合
やってもやらなくてももらえるんだし、とやる気は高まらない。
質に関わらず報酬が与えられると期待している場合
どんなに雑に仕上げてももらえるんだし、ささっととにかく形にしてしまおうと、質の向上につながらない。より複雑で創造的な作業には、お金などの物質的報酬は効果なしと示す研究も以前少しまとめたんですが(「子供をやる気にさせる三つの要素」)、ありますね。
 
 

・より「物質的な大人」になる?

長年「物質主義(materialism)」についての研究を続けるミズーリ大学教授Marsha Richins氏によると、子供時代に、よい行いやそれらを促すために報酬を与えることは、より物質主義的な大人へと育てることになるのでは、と報告しています。愛情や子供の達成への報酬を物質によって表す親に育った子供は、物質的な所有物をより自分自身と同一化するようになり、大人になっても自分自身に物質的報酬を与え、自分が誰であるかを所有物によって定義しがちだと言います。(http://parenting.blogs.nytimes.com/2015/01/08/the-risk-of-material-parenting/?_r=0
 
 
 
 
 

家庭での取り組み

家庭でも普段「ポジティブな行為」を認めるようにしつつ、同時に、以上のような研究を念頭に、報酬についてはバランスをとっていけたらなと思っています。きらびやかな報酬に溢れた学校生活、学校で表彰されたら一緒に喜び祝いつつ、家庭では、内的モーティベーションを大切にする働きかけも散りばめていけたらなと。
 
掃除をしたら、きれいになって気持ちいいねー、と一緒に楽しむ。
学校から帰ってすぐに宿題を終わらせたら、「早く終わらせると後でのびのび遊べるね」と嬉しそうに声をかけてみる。
お友達に親切にしたら、○○ちゃん嬉しかっただろうね、と一緒に喜ぶ。
 
以前の記事「子供の行為を導く最強メソッドとは?」でも、「『ポジティブな行為』を認めてやるには、『そっと肩に触れるくらいでいい』と発達心理学者Aliza Pressman氏が言っていましたが、案外家庭では、小さな子ほど、ママやパパからの心のこもったこんな言葉がけやスキンシップで、十分満足することも多いのではないでしょうか。
 
学校のような大集団をまとめるには、即効性のある全校あげての表彰式も必要かもしれません。それでも家庭では、また違った「その行為をすること自体の喜び」も体験させてやれたらな、そう思います。それには、ママやパパが「その行為をすること自体を喜んでいる姿」を示してやるのも効果的なのでしょうね。「しなさい!」よりも、人を助ける、掃除をする、学ぶ、やっかいなことを先にする、そんな行為を自ら喜んでいる姿を体現していく。まあ実際は、難しい場面も多々あるわけですが、できる範囲で。
 
外的報酬を受け取る喜び、内的な喜び、大人になっても、動機には両者が混ざり合うもの。バランスを取りながら、両方の喜びを体験させてやれたら、そう思います。
 
 
 
さて、今朝もこれから学校です!
それでは皆様、今週も良い日々をお送りください!
 
 
 

参考資料:

Fabes RA, Fulse J, Eisenberg N, et al. 1989. Effects of rewards on children’s prosocial motivation: A socialization study. Developmental Psychology 25: 509-515.

Chernyak N and Kushnir T. 2013. Giving preschoolers choice increases sharing behavior. Psychol Sci. 24(10):1971-9.

‘Raising helpful kids:The perils of rewarding good behavior’ by Gwen Dewar, Ph.D.

http://www.parentingscience.com/helpful-kids-and-rewards.html

 

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